こんにちは、メンタルトレーナーの葉月です。
スポーツをするうえで「記録の停滞」や「パフォーマンスの伸び悩み」など、一時的に調子が落ちて力を十分に発揮することができない状態を「スランプ」と言いますが、子供がスポーツをする中でスランプに陥ってしまった時に「手助けをしてあげたい」「支えてあげたい」と考える保護者の方も少なくないと思います。
親にとって、子供が苦しんでいる姿を見ることはとても辛いことです。それは同じ親としてとても共感できます。「この子は自力でここから抜け出せるのだろうか」「このままでは辞めたいと言ってくるのではないだろうか」「このことをコーチに相談するべきか」などの「悩み」や「不安」と葛藤することもあるかもしれません。
しかし最終的にスランプを乗り越えるのは子供自身です。
そこで親としてするべきことは、転んでいる子供を抱き起すことでも、「立ち上がりなさい!」と叱咤することでもありません。まずは子供が安心してスポーツに取り組める環境を整えてあげることと、コートやグランドに立つ子供の笑顔を取り戻してあげることではないでしょうか。
今回は「子供がスポーツでスランプに陥った時、親がして良いこと悪いこと」について考えていきたいと思います。
子供にとってのスランプとは
スランプとは、心身の調子が不安定になって「記録の停滞」「技術の伸び悩み」などが起こることをいいます。
競技キャリアが長く、ある程度の実力を持った選手であれば、一時的に伸びが停滞する時期は誰に起こってもおかしくありません。
試合に対するストレスや大人達からのプレッシャーなど精神的なものが原因となる場合もありますし、成長期における身体の変化がきっかけとなる場合もあります。
特に「ポスト・ゴールデンエイジ」と呼ばれる13歳から15歳の時期は、筋肉や骨格が急速に成長します。
この成長期における「身体の変化」に感覚がついていけずにパフォーマンスの低下を招くことがあり、これを一般的に「クラムジー」といいます。
このように子供達がスランプに陥るきっかけは様々なケースがあるため、そのきっかけに対する対処法が必要となりますので、まずは子供の気持ちや状態をしっかり把握する必要があります。
スランプに陥る原因とは
スポーツをする子供達がスランプへ陥る原因としては主に以下のようなものがあげられます。
- 目標達成が失敗に終わってしまった時
- 予想外の敗北
- 技術面で急激な成長を成し遂げたあと
- 周囲からのプレッシャー
- 人間関係(コーチやチームメイト)に対するストレス
- 練習メニューや練習量の変化
- 身体の急激な成長
このようにスポーツをする子供達がスランプに陥る原因には様々なことが考えられ、中には心がボロボロになるまで本人さえ気づかないケースもあります。
また身体の急激な成長に脳がついていけず、パフォーマンスが一時的に落ちてしまうという成長期の子供特有のスランプ「クラムジー」もあり、メンタル面のケアだけではカバーできない部分も存在しますし、停滞という意味ではスランプではなく「プラトー」であることも否定できません。
スランプとプラトーの違い
スランプとは競技キャリアが長く、ある程度の能力を持つ選手が陥る一種の混乱状態のことをいい、比較的競技能力が短い選手の「停滞」はプラトーであることがほとんどです。
スポーツを始めてしばらくの間は、初めてのことが多いし、今までできなかったことができるようになるため急激な成長を感じることができます。
しかしある程度のレベルや年齢に達すると「得意なこと」と「苦手なこと」、「好きな練習」と「苦痛な練習」に合わせて、身体的な特徴などから「するべき課題」を避けてしまったり「苦痛で地道な努力」ができなくなってしまうことがあります。
そして子供達はとりあえず「何らかの練習」をやっておけば、努力を怠っていない気になったり、練習をちゃんとやっている気になります。
その結果「頑張っているのに結果がついてこない」「努力をしているのに自己ベストが更新できない」となるわけですが、それがスランプかと聞かれれば、答えは「NO」で、それは「プラトー」に当てはまりますので、自分の苦手を克服する努力を怠らないことが大切になります。
「停滞」という意味では、スランプもプラトーも似ていますが、停滞の原因が「心身の疲労」などであれば「休息」が必要となりますし、プラトーであれば自分の課題ときちんと向きあう必要があり、それぞれに対処法が真逆なため注意が必要です。
スランプへ陥った時の問題点
何か物事に取り組んでいるとそれぞれにバイオリズムが存在し、不調な時期と絶好調の時期が訪れるのは当然のことです。
もちろんスランプやクラムジーは永遠に続くものではありませんし、辛くても苦しくても必ずそこから抜け出せる時が訪れます。
ただし、スランプに陥っている時期に間違った思考や行動をしてしまえば「負の無限ループ」に陥ってしまいスランプを長引かせてしまうことも。
たとえば…
- 結果を出せないことに焦っていつもと違う行動をする
- 不安や恐怖心からマイナスの考え方しかできなくなってしまう
- 周りの選手と比較してイライラしたり、劣等感を抱いてしまう
- 停滞が後退に思えて、今までしたことすらできなくなってしまう
などのように、ネガティブな思考がさらに悪い状態を引き起こし、スランプから中々抜け出せず、パフォーマンスが低下したり怪我をしやすい状態をつくってしまうことがあります。
特にクラムジーの場合は、新しい技術の習得よりも、基本動作の質を高めることに意識した方がいい時期でもありますので、特に焦りが禁物となります。
子供のメンタルに大切なもの
スポーツをしていると「楽しいこと」「嬉しいこと」「辛いこと」などたくさんの経験をしますし、それがスポーツをする醍醐味だとも思います。
ただ子供達はプロのアスリートではありません。この先の夢が「プロ野球選手」だろうと、プロ野球選手がしていることをジュニア世代の子供達が真似をしてもそれが全て結果につながるとは限りませんし、むしろマイナスに作用してしまうケースもあります。
子供達に「自主練しなさい」「目標を立てなさい」「意欲を持ちなさい」「挑戦しなさい」「強い心を持ちなさい」と伝えるのは簡単ですし、教科書通りにメンタルトレーニングをさせることも簡単です。
そして、一生懸命メンタルトレーニングを教えたお母さんが「全然効果が出ない。うちの子は全然ダメだわ!」となってしまうケースも珍しくありません。
私がメンタルトレーナーとして携わっているミニバスケットボールチームのお母さんにも「うちの子には意欲がない」「うちの子には積極性がない」と嘆く方がいるのですが、そこにある多くの原因が「土台作りができていない」ということです。
もっと分かりやすく「組体操のピラミッド」でお話しましょう。
私が子供の時は運動会や体育祭の組体操で「人間ピラミッド」が当たり前のようにありましたが、今は怪我や事故などが原因で行っていない学校も増えしました。
この「人間ピラミッド」を子供のメンタルで例えたいと思います。
一般的に一番上に立つ子供は体重が軽くて体幹がしっかりしている子が選ばれますよね。そして一番下は比較的に身体が大きくて力のある子が選ばれます。
しかし下段の子供達が「オスグッド」などで膝に痛みを抱えていたり、手を骨折していたらどうでしょうか?
上から押し寄せる重みと自分自身の痛みに耐えきれずプラミッドは一瞬で崩れてしまいますよね。
子供のメンタルもこれと同じで、土台が健全な状態でないと崩れてしまうのです。
では、その健全とは何を意味さすのかって話ですが、それは心の「安心」と「安定」になります。
1段目に「安心」や「安定」、2段目に「目標」や「夢」、3段目に「やる気」や「負けん気」、そしてトップに「挑戦」や「実行」というように並んでいきます。
つまり、心の中に「安心」がなければ「やる気」や「挑戦」につないでいけないし、子供の中に「失敗に対する不安」や「怒られることに対する不安」などがあれば、メンタルピラミッドは崩れてしまうということです。
少し前置きが長くなってしまいましたが、次に今までの話を踏まえて、本題の「スランプの子供にしてあげられること」についてお話ししたいと思います。
スランプの子供にしてあげられること
スランプに陥ってしまうと、どうしても不安が自分につきまとい、スポーツをする子供達にとっては「精神的にも肉体的にも辛い時期」となります。
何をやってもうまくいかないため、苛立ちを感じたり、卑屈になったり、思考がネガティブになってしまうこともあるでしょう。
ただ、冒頭でもお伝えしましたが「スランプを乗り越えるのは子供自身」ですし、親としての役割は転んでいる子供を抱き起すことでも、「立ち上がりなさい!」と叱咤することでもありません。
では早速「子供がスポーツでスランプに陥った時、親がして良いこと悪いこと」について考えていきたいと思いますので、参考になる部分がありましたら、ぜひご活用いただければと思います。
子供の状態を理解する
まず「スランプを経験したことがない=強いメンタルの持ち主」とは限りません。
適当にやっている人は、大きな成果をあげることもない代わりに、壁にぶつかったり、スランプを感じることもないでしょう。
子供がスランプに陥った原因がどこにあるのかを把握することも大切ですが、そこで親がイライラして責めるような言葉を言ったり、「気持ちを切り替えてやる気を出してよ」とお尻を叩くことが最善の方法とは言えません。
子供がスランプに陥って悩んだり苦しんでいるということは 「ひとつのことを真剣に取り組んでいる証」だということをまずご理解いただければと思います。
子供の話は最後まで聞くこと
スランプに陥ってしまった子供達は、焦りや迷いからイライラしたり、劣等感を抱いて悲観的になってしまうことがあります。
しかし子供達は、お父さんやお母さん達から「今の自分を認めてもらえる」ことで、安心して前へ進むことができますし、逆に親からも否定的な態度を示されれば、さらに状態を悪くしてしまうばかりです。
スランプを乗り越えるのは子供自身ですが、それを見守り支えてあげるのはお父さんやお母さんの役割だと思います。
もしお子さんが相談してきた時は、とにかく話をしっかり聞いてあげましょう。
その際に「自分がそうだったから子供もそうだろう」と自分の経験に基づいた決めつけは危険ですし、うまく伝えられず脱線しかけている子供の話を遮って先に結論を言ってしまうようなことがないようにしなければなりません。
子供の気持ちをしっかり受け止めるためには100%の話を聞いてあげなければいけません。 99%では子供は満足しませんし、その残りの1%にとても大きな意味が隠されているかもしれません。
承認欲求を満たしてあげる
承認欲求を一言で説明すると、人から認めてもらいたいという感情で、その欲求が満たされていない状態では心を整えることは難しく、ここぞという時に「諦めのいい選手」になってしまいます。
子供の結果ばかりを評価するのではなく、たとえ結果が悪くてもそれまでの努力を認め、子供の未熟な部分も受け入れてあげることが大切です。
それができるのはお父さんやお母さんだけだと思いますし、 子供達が自分の努力を一番認めてもらいたいのはやはりお父さんやお母さんだと思います。
大人達はつい子供達の欠けている部分を指摘して改善しようとしがちで、そのせいで子供達の努力や良い部分が曇ってしまうことがあります。
日頃から「頑張っていること」「努力していること」をきちんと認めて子供の気持ちを満たしてあげることが大切です。
イチロー選手が考えるスランプ
画像引用元:https://news.yahoo.co.jp/
イチロー選手がある中学生に「スランプの克服法」を尋ねられこう答えたそうです。
「克服法は対処しないことです。辛いけどそのままやってください。」
自分ではどうすればよいか分からず、苦しんでいる中でのこの答え。なんだか、見放された感じすらします。
イチロー選手は、素晴らしい才能を開花させ、全てにおいて順調に野球人生を歩んできたように思えますが、実はイチロー選手にもスランプに陥った時期はありました。
そんな時イチロー選手はどうやってやり過ごしたかって話ですが、彼は「時が過ぎれば元に戻るだろう」と楽観視していたそうです。
「失敗を引きずると、次のチャンスが来た時に、その失敗分のプレッシャーを感じるので、一回一回を新しいものとして受け入れる」というのがイチロー選手の考えです。
まとめ
今回は 「子供がスポーツでスランプに陥った時、親がして良いこと悪いこと」についてお伝えしましたがいかがでしたでしょうか。
子供達は、良いことも悪いことも経験したことがそのまま体と脳に染み込んでいきます。
スランプを乗り越えた経験は、子供達の心の成長に良い影響として体の中に刻まれることでしょう。
スランプを自分の力で乗り越えた子供達は、この先も同じような壁にぶつかった時、自分で道を切り開く力がついているはずです。
そこで得た自信や力は、スポーツの場面だけでなく、社会人になってからも自分の財産となりこの先もずっと子供達の支えとなってくれることでしょう。