こんにちは、メンタルトレーナーの葉月です。
子供達がスポーツをする中で、歩く道が全てキレイに舗装されていて安全に通れる道かと聞かれれば、答えはNOだと思います。
スポーツは楽しいこともたくさんあるけれど、時に「挫折」「トラウマ」「スランプ」「イップス」に悩まされる選手も少なくありません。
今回は、あるお母さんからご相談いただいた内容をもとに「子供が持つ不安の原因と深層心理」について考えていきたいと思います。
イベントに対する不安の克服 花ちゃんママからのご相談
小5の娘、花はチアを習っています。
習い始めたきっかけは、幼少の頃から恥ずかしがり屋で 初めて行う事にとても臆病な性格だったので 元気なチアを習う事で、少しでも前に出ていけたらいいなぁ、と思い始めました。 最初のイベントでは大泣きしたものの、すぐにチアが大好きになりました。
間もなくして、高学年のお姉さんの選抜チーム(競技チアで大会に出場するチーム)に憧れ、それに向けて親子で努力が始まりました。 小4の時に、選抜メンバーに選ばれて大会に出ることに…。
毎日の厳しい練習でしたが、目標だった選抜チームで踊れることが本人も私もとても嬉しかったので忙しいけど楽しい毎日でした。
2018.1月 愛知大会に出場。1位で全国大会のきっぷを手に入れ 、2018.3月 幕張メッセにて全国大会。
本当に広くて立派な会場で、ここで踊るのだと私自身も緊張でドキドキでした。そこで娘の演技が始まりました。花のチームは小3~小4の9人で構成されていて 2分30秒間、演技します。
緊張の中、みんなが素敵な笑顔で踊っていました。 もちろん花も。 踊っている途中、花がオエっとえづくような状況が2回ほどあり、残り40秒あたりで、花が一番左はしに移動した時に・・・ 踊るのをやめて、そのまま競技フロアから抜けて退場してしまったのです。
何が起こったのか、私も頭が真っ白で、そのまま応援コーナーにうづくまってしまいました。その後、娘と対面しましたが親子で号泣でした。 なぜ、最後まで踊れなかったのかと、花は悔し涙を流しておりました。
本人も気持ち悪くなった事だけが心に残っていたけど、なぜそうしたのか、分からない状況でした。
後から、演技中、ラインダンスをしたときに隣にいたお友達が肩を組んだ時、花ちゃんがすごいハァハァ呼吸していつもと様子が違っていたと教えてくれました。
花が退場した後も、残り8人が動揺せず踊りきってくれた事で花たちのチームは、まさかの5位に入賞出来て、 全国のトロフィーを持ち帰る事が出来ました。
表彰式までの待ち時間、先生から私に相談があり、花の心の行き所を作るためにも、ダンサーとしてフロアを降りた事を叱り、メンバーの皆に謝る場を作ってあげた方が、花が少しでも楽になるのではと提案があったので、そうする事にしました。
私自身もメンバーや保護者に頭を下げた方が楽でした。 その行動が花にとって良かったのかどうか今でも分かりません。
先生からの総評の後に謝る事が出来てスッキリしたのか、翌日はメンバーとのディズニーランドを楽しく過ごす事ができました。
でも、その大会の出来事は花にとって、とても辛い思い出になりました。
その後、小さなイベントに出るのもドキドキと不安。 何より「気持ち悪くなるんじゃないか・・・」それがとても心配のようでした。 実際に、練習の時やイベントで気持ち悪くなった事が数回あるようです。
小5の春の時、再び選抜チームに入るか悩みましたが、花は「もう誰にも迷惑かけたくない」と言いました。 何よりも怖かったと思います。
でも本当は、もう気持ち悪くならないのなら選抜がやりたかったんだと言葉にしたことがありました。
1年前は、私自身も不安でとても背中を押す勇気はありませんでした。 でも今は「この出来事にも意味があるんだ」と受け止めて答えを探している最中です。
そんな中「メンタルトレーニング」という言葉をみつけて、メンタルを鍛えたら、強くなれるんじゃないか、乗り越えられるんじゃないかと…。
何か助言頂ける事がありましたら、教えていただきたいです。 どうぞよろしくお願い致します。
メンタルトレーニングの目的とは
メンタルトレーニングの主な目的は、本番で十分な実力を発揮することにありますが、ジュニア世代に行うメンタルトレーニングは周りの「理解」と「協力」がとても重要です。
特に小学生の子供達がスポーツを通して辛い経験をすることは、良くも悪くも今後に大きな影響を与えることがありますので、周りにいる大人達はしっかりと心のケアをしてあげることが大切です。
その中で一番意識してもらいことは、子供のメンタルは鍛えるのではなく「整えてあげる」ということです。
スポーツをする子供達にとって精神面で一番大切なことは「安定」と「安心」です。「負けん気」や「諦めない心」「強い心」はその後に付いてくるものだと考えてください。
子供の精神が不安定になる原因
花ちゃんも「気持ちが悪くなってしまう原因」が分からなければ、ずっと不安だと思います。
今回のように体に異変がでる場合でも、精神的な負荷が原因で起こるパターンは多く見られます。
その主なきっかけは「プレッシャー」「緊張」などがあげられますが、本人もそのことに気づいていないパターンは多く、そのことが原因で脳が否定的になって体に症状が現れることがあります。
子供の深層心理
私はスランプに陥った子供やイップスになった子供を見てきましたが、この時に選手が抱える全ての辛さを本当に理解してあげられる人はいないと思っています。もちろんそれは親も例外ではありません。
だからこそ、このような状態になった時は子供の気持ちを受け止めてあげることが大切なんだと思います。
今は花ちゃん自身が自分に対して否定的な考えを抱いてしまっているため、それは小学生の花ちゃんにとってはとても辛い状態だと思います。
- チームに迷惑をかけてしまった自分
- お母さんの期待に応えられない自分
- 最後まで踊ることができなかった自分
そこで私が子供達との会話で一番多く使うキーワードは「大丈夫だよ」です。
子供が自分自身に否定的になっている状態のままでは「頑張って前に進まないと」という思いはあっても、体と心がついていかずさらに辛くさせてしまうことがあります。
子供達は無意識のうちに「失敗をする自分」や「周りの期待を裏切ってしまう自分」を恐れていますので、その不安が自分につきまとっているうちはメンタルが不安定なままで整えることは難しいでしょう。
花ちゃんが一番不安に思っていることも、「また気持ち悪くなるんじゃないか」ではなく、「もしも気持ちが悪くなったら、みんなに迷惑をかけてしまう」「また同じようなことが起きたらお母さんを悲しませてしまう」ということではないでしょうか。
人が不安を抱く時は、目の前の事実の裏に必ず「違う真実」があるものです。
その「違う真実」を大人が受け止めて「大丈夫だよ」と背中をポンポンと叩いてあげことで、花ちゃんの重たい荷物が肩から下ろされるかもしれません。
子供の気持ちを置き去りにしない
メンタルのケアは指導者でも保護者の方でも教科書を読めば誰でも行えるように思えますが、実は指導者や保護者の方が行う場合は、私たちメンタルトレーナーが行うよりも注意しなければならない点があります。
それは「子供の気持ちを置き去りにしない」ということです。
大人があまりに熱心になりすぎてしまえば、子供はさらにプレッシャーを抱えることになります。
私たちメンタルトレーナーは子供の心の安定を一番に考えますが、指導者の方や保護者の方はどうしても結果を求めて少し子供より前を進もうとしてしまう傾向にあります。
ジュニア世代のメンタルを安定させるために必要なことは、子供と同じ歩幅で歩いていくことです。
特に女の子は、競技パフォーマンスを否定されることを自分人身を否定されることと受け捉えがちなため、できていない部分にフォーカスするよりも、頑張っている部分、努力している部分にフォーカスして認めてあげるとメンタルを安定させやすいと考えられています。
トラウマを克服させた指導者の話
私がメンタルトレーナーになったきっかけは、バスケをしている息子達の影響でした。
これは息子が小学生6年生になった夏の大会のお話です。
息子はいつも通り試合へ出発したのですが、実際に試合を開始してから10分ほど経った時に「過呼吸」を起こし、試合続行が困難だと判断されてベンチへと戻されました。
そして試合の後半戦、落ち着きを取り戻した息子は再びコートへ立ちました。その日の試合は夏の県大会をかけた大切な試合だったので、息子も気持ちを強く持ってくれたんだろう…と私はホッとしたことを覚えています。
しかしコートへ戻ってしばらくすると、また息子の様子に違和感を感じました。
呼吸が浅く荒くなり、そのままコートへ倒れたと思ったら、足が引きつけを起こして歩くことすらできない状態が起こりました。
息子は周りの大人達にコートの隅に運ばれて、結局その試合で最後までプレーを続けることはできず、その後は失点続きでチームも負けてしまいました。
それから息子は、過呼吸やこむら返りを起こすことはなく、秋季大会でチームは大きな結果を残すことができ、無事に笑顔で卒団することができました。
しかし、その出来事が不安要素となって顔をだしたのは、中学生になった時でした。
私に「俺、バスケ向いてないかも…辞めようかな」と言ってきたことがありました。その理由を聞いてみると「たまに意味のない不安に襲われそうになって、胸が苦しくなるんだ…。」とのことでした。
そして息子の話をじっくり聞いて分かった原因が「ミニバスで経験した夏の出来事」だったのです。
それは本人も気づいていなかったのですが、あの時に言われたコーチからの言葉がトラウマとなって息子をずっと苦しめていたのです。
「お前のメンタルが弱いせいで大切な試合で負けてしまった。お前よりも試合に出たいって思っているやる気のある選手はいるし、また同じようなことがあったらベスメンから外すからな!分かったら気持ちを強く持ってくれ!お前の弱さに付き合うほど俺は優しくないぞ。」
と言われたそうで、あの時のコーチの言葉と表情がずっと心に残っていたのです。
私はその後、当時の部活動顧問に相談しました。
すると先生は「分かりました。では彼が安心できるような環境を整えましょう。もしもこの先同じような状態になっても対応できる環境を用意します。」と言い、足がつった時の対処法や過呼吸に対する対処法を自らが学んでくれ、息子に「先生に任せろ!これでいつでも大丈夫だから、お前は安心してプレーすればいい。」と言葉をかけてくれました。
そして小声で「お前のことを理解しようとしない指導者はもうここにはいないからな。ここではみんなお前の味方だ。」と言ってくれたそうです。
それから息子はずっと抱えていた、不安やモヤモヤした気持ちがスッキリなくなって今は高校でバスケを楽しそうに続けています。