メンタルトレーナーの葉月です。
今回のテーマは 「子供のメンタルが弱い原因とポジティブ思考に対する考え方」です。
子供達が物事に取り組む中で「ポジティブであること」がメンタルを整えるうえで重要だとされていますが、それは全ての場合においてそうだとは限らず、時には逆の思考が必要な場合もあります。
それは皆さんが考えるような「ネガティブ思考」とは少し違って、人は全てにおいて「絶好調」でいることは不可能ですし、いくらポジティブ思考になって前向きに取り組んでいても、スポーツの世界では「想定外の出来事」は多く存在します。
その想定外の出来事には良いこともあれば、悪いこともあるし、悪いことに対する出来事に対しては、予測して準備をしておくことも必要で、そのためにはポジティブ思考であるだけでは不十分だということです。
今回は子供達が、様々な場面においてメンタルを乱さず対応できるように、ポジティブとネガティブの切り替え方についてお伝えしたいと思いますので、最後までお付き合いいただければと思います。
ポジティブ思考が必要な理由
子供達がスポーツや習い事、勉強などに取り組む中で、本来持っている実力を十分に発揮するためには、ポジティブ思考の方が断然有利だとされていますし、それは間違えありません。
では「なぜポジティブ思考が有利なのか」「なぜネガティブ思考が不利なのか」ということについて根本から説明したいと思います。
何事に対してもネガティブに考えてしまう人の脳内はとても不安定で「不安を感じる→心配になってくる→考え込む→さらに不安や心配が強くなる→悩んで呼吸が乱れる→集中力がなくなる→ミスや失敗をする→落ち込む→引きずる→さらに不安になる→考え込む」こんな状態なのです。
このような状態で意欲的にスポーツや勉強へ取り組んでも良い結果が出るとは考えがたいですよね。
ネガティブ思考は不安を大きくするだけでなく、やる気の低下、不平不満などを誘発し、失敗やトラブルの元となってしまいます。
そのため、普段からポジティブな考え方を癖つけることが大切だとされています。
ネガティブ思考が才能の邪魔をする
「頑張ってもどうせコーチは認めてくれない」「あのチームにはどうせ勝てっこない」「俺にはどうせ無理なんだ」などのように、「どうせ」という言葉はとてもネガティブで、子供達が本来持っている才能を削ってしまいます。
つまりネガティブな思考が、子供自身の限界を決めてしまい、目標や希望を曖昧なものにしてしまうのです。
動物は天敵の前に出ると、不安や恐怖から体がすくんでしまいます。
それは子供達も同じで、不安や恐怖を感じて脳がストレスだらけになってしまえば、筋肉がこわばり、パフォーマンスの低下を招いてしまいます。
逆に脳が肯定的になれば体の動きはよくなり、辛い練習でも自分の成長を感じる事ができ、パフォーマンスの向上の向上につながります。
そのため私たち大人は、時に子供がネガティブな思考にならないための手助けをしてあげる必要がありますし、まずは大人が否定的な発言を控える必要があります。
プラスイメージとマイナスイメージについて
新しいことに対して挑戦する時は、ポジティブ思考であることが大切だし、ポジティブ思考であることが「意欲」「やる気」を高めてくれます。
しかし、ある程度のレベルまで到達したら、ポジティブ思考だけで全てのタスクをこなしていくことは難しくなってきます。
たとえば、スポーツでメンタルを整えるトレーニングの一つに「イメージトレーニング」があります。
一般的にイメージトレーニングは、より良いパフォーマンスを発揮するために「最高の自分」を脳内で繰り返しイメージして、それを実現化するものとされています。
私も緊張やプレッシャーに弱い選手に対しては、このイメージトレーニングを行うように指導しています。
しかし、冒頭でもお話ししたように、スポーツには「想定外の出来事」が多く存在し、選手はそれらを予測して準備をしておくことが大切になります。
たとえば…
- 自チームの失点やミスで試合の流れが変わった時は、みんなで声を掛け合って集中力を途切らせないようにしよう。
- 得点差から「もう勝てっこない」というところまで追い込まれたとしても、「これだけは達成する」というそれぞれの課題をクリアできるように最後まで戦い続けよう。
- ミスをする時はせめてこの場所で、このタイミングで。そしてその時のフォローはこの作戦で。
- 相手チームに体力面では敵わないかもしれない…。だから技術面と戦略で乗り越えよう。
このように、マイナス面の予測もしつつ、それに対する対応や対処法を考えておくことで「想定外の出来事」に対応できますし、「とにかく頑張ろう!」「なんとかなるさ!」とポジティブでいるだけでは、流れが良い時は十分なパフォーマンスを発揮することができても、何かがきっかけとなってメンタルを一気に乱して弱くしてしまう恐れがあるということです。
不安や恐怖に勝つために
子供達は周りの大人達から「緊張」や「不安」を抱くことは悪いことで、「前向きに取り組む」ことが良いことだと教えられ、無意識のうちに「緊張してはいけない」「ドキドキすることは悪いこと」「自信を持つことが大切」と考える癖がついています。
そのため「気持ちを切り替えなければ」とそのことばかりに意識が向いて、目の前のことに集中できない状態を自分でつくってしまうことがあります。
そんな選手に有効的な方法で「開き直る」というちょっと大胆な対処法がありますのでお話ししたいと思います。
思いっきり落ちこもう!
私がメンタルトレーナーとして携わっている中学男子バスケットボール部の中に、コーチに怒られた時や、失敗した時に焦ってメンタルが乱れ、気持ちを切り替えることが上手にできない選手がいました。
選手「葉月さん、失敗した時ってどんな風に気持ちを切り替えればいいですか?このままでは負けてしまうんではないかと気持ちが焦ってしまって、気持ちを落ち着かせようと努力してもうまいこといきません。」
葉月「そうね…。そんな時は思いっき落ち込んでみて。」
選手「えっ!?落ち込むんですか?そんなことしてたら試合から外されますよ!」
葉月「でも、努力しても上手に気持ちを切り替えられないんでしょ?だったら違う方向からアプローチしていかないと!」
選手「でも、試合中に落ち込んでいる暇なんてありませんよ…」
葉月「そうね。試合はどんどん展開していくから、落ち込んでいる暇もないし、ずっと落ち込んで下を向いていたら間違いなくベンチに戻されるわね。だから時間制限を設定して一気にズドーンと落ち込んで戻ってくるのよ。」
選手「時間制限ですか?」
葉月「そうよ。たとえば、10歩進み終わるまで落ち込むとか、一呼吸息を吸って吐くまで落ち込むとか、短時間で落ち込んで、気持ちの切り替えをもっと明確なものにするの。現在の自分を受け入れて、未来へ前向きに進むスイッチが明確化されるってこと。」
選手「はぁ…。」
葉月「ちょっと…信じてないでしょ!?今まで私が間違ったこと言ったことある?」
選手「いや、ないです、ないです笑笑」
葉月「まぁ最初は違和感感じるかもしれないけど、これって本当に効果あるからやってみて。逆に一番よくないパターンは、現在の自分の感情を抑え込んでがむしゃらに前に進もうとすることだからね!それだと必ず綻びが出るからね。」
それからその選手は気持ちを切り替える手段として「開き直る」方法を一つの手段として、上手に活用していくようになりました。
言葉を吐き出す「クーリング」
「クーリング」という方法もネガティブな面を一度受け入れることで、気持ちを整理させる方法です。
否定的な感情をなんとか誤魔化しても、何かの拍子にネガティブ思考が顔を出すことがあります。
つまり「ポジティブ思考でなければならない」と自分に言い聞かせていても、そこに不安要素や恐怖感があれば、脳がいつマイナス思考になるか分からないということです。
そこで有効なのが「クーリング」というメンタルトレーニングです。モヤモヤしているものや嫌なものを吐き出したいときは、ノートに書くことで気持ちが整理できる場合があります。
ネガティブな言葉や本音の中には解決へのヒントが隠れているはずです。
今の気持ちを書いて「なぜそう思うのか」「今の自分には何ができるのか」を子供に考えさせることで、解決へと導いてくれる「何か」が見つかるかもしれません。
自分自身を肯定することが大切
人がイライラしたり、落ち込んだり、悩んだりすることはごく自然なことで、それは時として自分を守ろうとして現れる感情でもあります。
「自信を持つ」「目の前に集中する」という行為は肯定的でありますが、それ以前に「自信が持てない自分はダメなやつ」「落ち込んでいる自分はダメなやつ」と無理やり気持ちを切り替えることは、自分に対する「否定」につながります。
彼のように自分が抱いている感情に対して、見て見ないふり、気づいて気づかないふりをして、不安や恐怖に無理やり蓋を閉めてしまうと、失敗や挫折がきっかけとなって一気に抑え込んでいた感情が溢れてメンタルを弱くしてしまうことがあります。
そこで時間制限をつけて「思い切り落ち込む」「思いっきり悩む」という行動をすることで、気持ちを上手に切り替えることが可能となりますし、それは試合以外の場面でも活用することができます。
何か物事がうまくいかないでイライラしたり、自分ではどうしようもできない問題を抱えたり、人生には失敗や挫折はつきものです。そんな時は
- 今日終わるまで思いっきり落ち込む
- 1時間だけクローゼットに閉じこもって泣く
- イライラするのは今日が終わるまで
などのように、実際の行動へ移すことで明確に感情を切り替えることができ、また前向きに取り組むことができるようになるというものです。
思考のスイッチを上手に切り替えるためには、だらだらと落ち込むことをやめて、時間制限をつけて思いっきり落ち込むことも大切です。
大人が気をつけたい言葉かけ
子供の中には感情をあまり表に出さない子がいます。これは女子よりも男子の方が多く、コーチや保護者の方は必ず注意しておきたい点です。
それは「男は男らしく」「スポーツマンはスポーツマンらしく」というイメージであったり、「耐えることが美徳」「弱音を吐かないことが美談」という考え方が選手のメンタルを弱くしてしまうというものです。
「弱音を吐いてはならない」「辛いことにも耐えなければならない」「涙を見せてはならない」など、「自分はこうあるべきだ!」との思いが強い男子選手は特に注意が必要です。
コーチや親からの「ポジティブであれ」「自信を持て」との言葉が、ポジティブ思考であるべき本来の目的を失い、自分を誤魔化して前へ進んでいけば、当然メンタルは消耗しますし、結果的に意欲が低下して最悪なケースだと燃え尽き症候群になる場合があります。
そのため、コーチや親は「ポジティブであれ」「自信を持て」「平常心を保て」などの分かったようで分かりにくい精神論だけで、子供のメンタルを鍛えようとしないことが大切です。
親や指導者のネガティブは子供に連鎖する
これはスポーツをしたことのある選手や、指導を行なっている方は経験があるかと思いますが、選手は試合中にピンチや絶望的な感情を抱いた時に指導者を見ることがあります。
この行動には色々なパターンがあるかと思いますが、「自分はこのままでいいのか?」「今の自分がするべきことはこれであっているのか?」「コーチは自分たちの試合に失望しているのではないか?」といった不安や迷いを抱いている場合がほとんどです。
その時に指導者がベンチで浮かない顔をしていれば「やはりこの試合はもうダメなのか」「自分達は見放されてしまったのか」とさらに選手の不安を大きくさせ、思考をネガティブなものにさせてしまいます。
それは応援している親も同じです。指導者や親の姿がたとえ選手から離れている所にあっても、追い詰められた選手は指導者や応援してくれている親のわずかな表情や仕草を見逃しません。
そのようなネガティブ思考はあっという間に選手へ連鎖しますし、逆に指導者や親が諦めず前に向かっていれば選手にプラスになるということです。
まとめ
今回は「子供のメンタルが弱い原因は「ポジティブ思考」に対する考え方にあった!」ついてお伝えしましたがいかがでしたでしょうか。
私たち人間が物事に取り組む際は、常にポジティブでいることが「成功の鍵を握っている」ということに間違えはありませんが、それ以上に現在の自分の状態と向き合うことが大切だということです。
本当の意味でポジティブでいるためには、ネガティブな面に対する予測や準備が大切ですし、自分の感情を誤魔化さないことも大切なことなのです。