こんにちはメンタルトレーナーの葉月です。
時代の変化は「いい意味」でも「悪い意味」でも子供達の成長過程に大きな影響を与えるようになりました。
今はとても便利な世の中で、ネットやメディアなどを通じて様々な情報収集ができますし、分からないこともスマホやパソコンで簡単に検索できるため、「分からないことを分からないまま」にせずにすむ時代となりました。
しかし昭和世代に育った大人達が「今の子供達は気持ちが弱い」「今の子供達は根性がない」と嘆く場面も多くみられます。
そして大人達はそのことを子供達やその親に原因があるように嘆くわけですが、その根本的な原因の多くが「日本の環境」にあるため、その問題点に対する対応をする必要がありますし、そうでなければ子供達を守ってあげることはできません。
今回も小学生にバスケットボールを教えている指導者の方から「子供の心を強くしたい」「子供の挑戦する力を育てたい」という切実な思いの相談メールをいただきましたので、こちらでご紹介すると同時に 「スポーツをする子供が心を強くして挑戦する力を育てる方法」について考えていきたいと思います。
子供達はどうして挑戦することをやめてしまうのか バスケットボールコーチからのご相談
私は小学生の子供達にバスケットボールを教えています。私は指導者を始めてから15年目になるのですが、15年前の子供達と今の子供達を比べても、心の強さに大きな差を感じることが多々あります。
私は子供達にもっと攻め気で戦ってほしいのですが、今の子はどうも消極的で、自分達がどのように戦っていきたいのかの意思表示すらできない選手がいます。
私はなんとか子供達に「負けん気」や「やる気」をもっと表に出してほしくて「チャレンジを恐れるな!」と言っているのですが、どうしても心が折れてしまうようでチャレンジすることを途中でやめてしまうのです。
先日の試合でもフォワードの選手に、今日は外からのシュートではなく、中に入り込んでからシュートにいけと指示を出したのですが、数回失敗して心が折れたのか、挑戦することから逃げてとりあえず外からのシュートを打ってばかりでした。
そして私は、今日はもう無理だと判断して、その選手を試合から外し、自分の何がいけないのかをきちんと考えるように伝えました。
私は最近自分の指導のあり方に悩むことが多々あり、コーチングの本を読んだり、メンタルトレーニングの本を読んでいるのですが、何が正しくて何が間違っているのかが分からなくなってきました。
そんな時に葉月さんのサイトを拝見し、大変興味深く感じたため、何かご教授いただければと思いご連絡させていただきました。
葉月さんのサイトで「試合で勝つためのイメージトレーニング方法」を見つけて子供達にもさせてみたのですが、正直効果が実感できません。
もしかしたら、それ以前の問題で私がするべきことがあるのではないかと感じるようになり、よろしければ何かアドバイスをいただけないでしょうか。
昭和と平成の違いとは
相談者さんのお気持ちはよく分かります。
スポーツをする限りはプレーに貪欲になってほしいし、「負けん気」や「やる気」を起こして何事にも前向きに取り組んでほしいというのは、指導者の方の切なる願いだと思います。
そして「今の子供は気持ちが弱い」ということは、確かにある意味正解だと思います。
もちろん「負けん気」「やる気」「折れない心」「諦めない心」をしっかり持って、目の前のプレーに集中して自分の納得いく結果を残せる子供達も多く存在するのですが、そうでない子供達の方が目立ちますよね。
では、子供達がそうなってしまう原因は何かって話ですが、それは「自己肯定感の低下」が大きく影響していると考えられます。
そして子供達の自己肯定感が低下する根本的な原因が「核家族化」や「ご近所づきあい」にあります。
現在の子供達は身の安全を守るため「知らない人について行ってはダメよ」「知らない人に話しかけられても何も答えちゃダメよ」と幼少時代から先生や親から言い続けられ、ご近所のおじさん・おばさん、お爺ちゃん・お婆ちゃんとの交流が遮断される時代となりました。
もちろん「子供達の身の安全」を優先すると仕方のないことかもしれませんが、昔は親に叩かれても、親から否定的なことを言われても、極端な話だとネグレクトや虐待を受けていたとしても、近所に住むお爺ちゃんやお婆ちゃんが「腹が減ってんだろ?これ食べな。」と優しく声をかけてくれたり、「本当のあんたは素直で優しい子なんだよね。ありがとう。」「本当に良い子だね。」「90点も取ったのかい?すごいね!頑張り屋さんだね。」と家の外にでも自己肯定感を育ててくれる場所がありました。
そしてその自己肯定感が子供達の「前向きに頑張る力」と「安定したメンタル」を育ててくれるのですが、今はそのような場所もなくなってしまいました。
自己肯定感とは「自分のあり方を積極的に評価できる感情」「自らの価値や存在意義を肯定できる感情」などをさし、このような感情がなれけば自分に自信を持つことができないし、何かを成し遂げるために必要なチャレンジ精神や負けん気を持つことができなってしまいます。
つまり今の子供達が自己肯定感を育てる中で、子供と触れ合っている少人数の大人の影響力は昔よりも遥かに大きいということです。
スポーツの現場で挑戦する心が削がれる原因
子供達の指導がうまくいかない時は、その原因を子供に求めるのではなく、自分自身に求めてみることで視野が広がり「解決の糸口やヒント」が見つかることがあります。
たとえば指導者の方は、選手へ「挑戦しろ!」「チャレンジしろ!」というばかりで、選手が挑戦できる環境準備していない場合が多くあります。
「もっと攻め気でいけ!」と言っていたコーチが、いざ選手が攻めるプレーをしたがボールを相手に奪われれば「何をやってるんだ!!」と選手を責めるなんて光景はよくあります。
指導者の方も挑戦をする中で失敗はつきものだし、その繰り返しで成長できるということを頭では理解しているかと思いますが、やはり何度も同じ失敗を見ていれば「苛立ち」が出てきてしまうこともあるのだと思います。
しかしこれでは選手が挑戦できる環境を準備しているとは言えませんし、指導者の心の乱れが選手に「恐れ」や「不安」を抱かせて行動に制限をかけてしまう恐れがあります。
人の行動が鈍る原因の一つが「恐れ」なのです。「失敗したら怒られる」という恐れや不安が「迷い」となり、選手のパフォーマンスを低下させてしまうのです。
もちろん子供達のミスを全て良しとするべきだとは言いませんが、子供達が挑戦することは大人が想像する以上に勇気のいることです。もしも挑戦が招いた失敗を指導者や保護者の方が責め続ければ、子供達は挑戦することをしなくなってしまうだろうし、それはスポーツをする楽しさを子供達から奪ってしまうことに等しいのではないでしょうか。
子供達が挑戦するために必要なもの
子供達が本来持っているセンスや能力に「差」があるように、子供達が持ってる自己肯定感にも差があります。
たとえば指導者や保護者の方がかける言葉の中で「頑張ってね!」「いつも通りにね!」という応援の言葉があります。
自己肯定感が高い選手はそれらの言葉に対して「僕なら大丈夫!きっと勝てる!」とやる気を起こさせるのに対し、自己肯定感の低い選手は「失敗してはならない」「練習通りにしなければならな」と捉えて必要以上にプレッシャを感じてしまう場合があります。
本番に強い選手とは当然前者の選手になりますが、目の前のプレーヤパフォーマンスにのめり込む集中力を保って、失敗や失点に気を取られずにいるためには、そこに 「安心してプレーできる環境が準備されている」ということが前提なのです。
もし失敗しても、そこから学べるものがあればそれでいいんだよと、「失敗した時の着地点」を準備してあげると選手はスポーツへもっと前向きに取り組めるのではないでしょうか。
子供への問いかけは未来を意識する
子供の挑戦が失敗に終わってしまった時、皆さんはどのような声かけをしていますか?
試合会場でよく見かけるのは、「どうして逃げた!?」「どうして攻めなかった?」「どうしてシュートに行かなかった?」という過去に対する問いかけです。
このように「なぜ?」の問いかけは失敗したことに対してとがめているようにも聞こえますし、この後の選手の答えは大抵が「すみません…」です。
「どうしてシュートにいかなかったんだ!?」「すみません…」
これでは大人の意見を一方的に子供へぶつけているだけですし、何の解決策も見つかりません。
残るのは、ただ怒られてしまったという事実だけです。
ここで未来に向けた問いかけに変えてみると、また違う答えが返ってくるので、例を出してお話したと思います。
それは
「どうすればシュートにいけたと思う?」というこれからの未来につながる問いかけです。
それに対する答えが正しいか間違えかはさておき、この問いかけに対する答えは子供自身の中にしかありませんし、なぜシュートにいけなかったのか原因を知ることができるし、改善策もここから生まれることになります。
この方法は、試合だけでなく練習中にも活用できる方法です。ぜひこのような会話から子供の気持ちや考えを聞いて前へ進める言葉かけをしてあげてほしいなと思います。
ジュニア世代のメンタルトレーニングの注意点とは
指導者や保護者の方がメンタルトレーニングについて本を読んだりして理解を深めることはとても素晴らしいことだと思います。
ただ相談者さんのように「何が正しくて何が間違っているのかが分からなくなってくる」ということは決して珍しいことではありませんし、私に選手のメンタルトレーニングをお願いしてくる指導者の方も「色々試行錯誤したけれど上手くいかなかったので依頼しました」というケースも非常に多いです。
では、上手くいかない原因は何にあるかという点をお話ししたいと思います。
私はスポーツにはそれぞれの役割があると思っています。
選手がプレーに責任を持って挑むことはもちろんですが、指導者の方はスポーツをすることの楽しさや技術を教え、保護者の方は子供達に美味しいご飯を食べさせてあげ、安心して暮らせる家庭環境を整えてあげることが役割だと思うのです。
そして、もちろん私の役割は子供達に考えることの楽しさや大切さ、メンタルの整え方を教えてあげることです。
もちろん指導者の方や保護者の方がメンタルトレーニングを行うことは十分可能なのですが、その際にどうしても見え隠れして子供のメンタルトレーニングの効果を下げてしまうのが、大人達の結果に対する「欲」や「焦り」です。
心の中に「不安」や「恐れ」がある場合は、いくら質の良いメンタルトレーニングを行っても、効果を実感できることはありません。それどころが結果につながらない苛立ちから子供を責めてしまう大人達がいるのも事実です。
それは私も例外ではありません。私はメンタルトレーナーとしてたくさんの子供達と触れ合ってきましたが、自分の子供には正直うまくしてあげられません。
メンタルトレーナーである前に母親ですから、そこには子供に対する「期待」や「希望」「欲」が出てしまい無意識に多くのことを求めてしまうことがあります。
息子達は今でもバスケットボールをしていますが、だから私は一切口出ししませんし、ひたすら美味しいご飯を食べさせて息子達の話を聞いているだけです。
そうするようになってからの方が、親子の関係は断然よくなったような気がしますし、子供達の「自主性」がしっかり育っているような気がします。
ジュニア世代のメンタルトレーニングで必要なものは「安心」という土台づくりです。イメージトレーニングの効果が実感できないということですが、もしかしたら選手達の中にある不安や恐怖感がなどが邪魔をしてるのかもしれません。
「負けん気」「やる気」「集中力」「パフォーマンス」はその後についてくるものだと考えましょう。