こんにちは、メンタルトレーナーの葉月です。
スポ少で大きく取り上げられている問題の1つとして、指導者の暴言や暴力問題があります。
暴力がいけないことは説明するまでもありませんが、暴言に関しては「伝える側」と「受けとる側」で大きく言葉の意味が違ったり、暴言とするかしないかの線引きには曖昧な部分が存在します。
今回もある保護者の方から「指導者の暴言・暴力問題」についてご相談メールをいただきましたので、こちらの相談をもとに 「指導者の暴言や暴力問題とそのことに対する対応・対処法」についてを考えていきたいと思います。
チーム内での暴言・暴力問題 しゅんママさんよりのご相談
私には小学校5年生になる息子がいます。
息子はバスケットボールのクラブチームに所属しているのですが、実は数ヶ月前からコーチの暴言や暴力の問題を抱えています。
先週の秋季大会で6年生は引退となり、これからは新チームで頑張ろう!という時期なのですが、息子は今のチームをやめるか続けるかで悩んでいます。
コーチはうちの息子に対して特に威圧的で、先日の練習試合でも「他の選手のミスもお前のミス、お前の心が弱いからこうなる!」と言われ、作戦ボードで頭を叩かれていました。
私はそれを見ているのがとても辛いです。
私以外にもコーチの指導方法に納得いっていない親もいますが、「期待されている証拠じゃない?」「しゅん君は怒られやすいタイプよね」「それでも試合に出れるからいいじゃない」「心が鍛えられていいわよ」「ここで乗り越えないと中学でも通用しないわよ」と軽く言う親がいるもの事実です。
私は「じゃあ自分の息子がされても同じことが言えるの?」と苛立ちを感じ、体育館へ行くのが憂鬱だったりします。
それでも何かあった時に守れるのは私だけだし、私がいないことでもっとコーチの態度が悪くなるのは避けたいので、練習には欠かさず行っていますが、私が今息子にしてあげれることはそれだけなのでしょうか?
もう誰に相談すればいいのか誰を信用したらいいのか分かりませんし、チームを去ることが正しい判断なのも分かりません。
何かアドバイスがございましたらよろしくお願いします。
指導者の暴言と暴力が子供へ及ぼす影響
私はしゅん君が所属するチームや指導する方の雰囲気を知らないので「絶対にこれ!」だという答えは出せないかもしれませんが、ただひとつ言えることがあります。
それは、何があっても指導者が暴言や暴力を使った指導をすることは、子供達にとって悪い影響しか与えないということです。
まず、暴言や暴力を使った指導では、子供が持っている「自主性」「自己肯定感」が削り取られます。
自主性はするべきことが明確な場合に、人から言われて動くのではなく、自ら率先して行動を起こすスキルで、いわゆる「やる気」の現れです。
そして自己肯定感は「自分自身を肯定できる感情」で、これがきちんと育まれている選手は逆境に追い込まれても「自分なら大丈夫」と物事へ前向きに取り組むことができます。
つまり「自主性」や「自己肯定感」が削り取られてしまえば、やる気を低下させ、パフォーマンスの低下を招き、さらに暴言や暴力を使った指導を受けることにつながる。それはまさに魔の無限ループです。
スポーツ指導で体罰問題がなくならない原因とは?
スポーツ少年団でも暴言・暴力に対する撲滅運動が行われているにも関わらず、いまだに指導者の体罰問題がなくならないのにはいくつかの原因が考えられます。
たとえば、自分自身もそのように指導されてきて「あの時の自分がいたからこそ、今の自分がある」と思っている指導者の方は、体罰に対して批判的でないし、自分自身も子供達へそのように指導を行うというケースは少なくありません。
それは自分が受けてきたスポーツ指導を否定することが、自分自身のスポーツ人生を否定することだと捉え、同じことを繰り返してしまうというものです。
そしてそのような指導者の方から聞かれるのは「今の時代は親や協会がうるさいから指導がやりずらい」というような言葉です。
もちろん過干渉なお母さんや過保護に育てられてきた子供がいるのも事実ですが、それはまた別の問題であって、スポーツの現場で暴言や暴力が使われることは絶対にあってなならないことだと思います。
保護者が暴言や暴力を誘発させているパターン
指導者による暴言や暴力問題が起きた時、一般的には指導者に非があると考えられますが、時として保護者の言動が指導者の暴言や暴力を誘発させてしまっていることがあります。
保護者の中には「今度の試合では何としてでも勝たせてあげてほしい」「もっと子供達へしっかり指導してほしい」「こんなに負けが続くと意欲が低下してしまうのでは?」「〇〇のコーチはもっと厳しく指導している。だから強くなるのでは?」などと個人的にコーチへ伝える方がいます。
そのことで「勝たせてあげること」がコーチの目標になってしまい、さらに暴言や暴力が白熱化するといったケースがあります。
このように保護者の方も含め、大人達は広い視野をもって子供達を見てあげなければ、様々な方向に過度なプレッシャーを与え、暴言や暴力を誘発させてしまう場合がありますので注意が必要です。
親が行う子供のメンタルケア
コーチが暴言や暴力を指導の一環として使ってしまうのは、自分の望むプレーと選手が実際にしたプレーに開きがあった時、怒りの感情がコントロールできなくなって行ってしまう場合が多くあります。
たとえば、A君が失敗しても怒られないけれど、B君が失敗したら怒られる。それはコーチがA君とB君に望んでいるものが違うのでA君に対しては不満を抱く程度ですむことが、B君にはそれ以上のことを望んでいたので怒りになってしまうというものです。そしてそのようなことがずっと続けば子供の自己肯定感は低下して心が不安定になってしまいます。
そこでお母さんにお願いしたいことは、「子供達の全てを受け止めてあげる」ということです。
頑張っていることを認めて、今のあなたのままでも十分大丈夫何だと「安心」を与えてあげることです。
子供達はスポーツをするうえでも、学校生活を送っていくうえでも、楽しいこともあれば辛いこともたくさん経験して大人になっていきます。
その時に子供の心が折れずに進めるかどうかは「安心して過ごせる場所があるか」または「自分自身を肯定できる環境にあるか」で大きく変わっくるのです。
そのためには常に子供の話を最後まで聞いてあげることです。
親の心の奥底にある隠れた希望が「本当はこうしたいんじゃないの?」「本当の気持ちはこうなんじゃないの?」と無意識に子供を誘導してしまうことがあります。
そのことが原因で「子供の話は最後まで聞いている」と言う親に対して「僕の話を最後まで聞いてくれない」と言う子供が後を絶ちません。
ここで大切なことは「今どんな気持ちでいるのか」「自分はどうしたいと考えているのか」子供の言葉を遮らずに100%最後まで聞いてあげることです。子供が言葉に詰まっても、急かせて結果を追求せず、99%ではなく100%の話を聞いてあげましょう。
乗り越えることでメンタルは強くなるのか?
親御さんの中には「ここで辛いことから逃げたらこの子は逃げグセがつく!」と言って子供にあえて試練を与える親御さんがいらっしゃいます。
もちろんそれが「怠け」や「逃げ」であれば、もっと頑張らせることが必要な時もあるかもしれません。
しかし、スポ少で暴言や暴力に耐えられたからといって、それが子供のメンタルを強くすることはありませんし、その経験があるからこの先も大丈夫だと言うことは絶対にありません。
私は自分がメンタルトレーニングをしてきた選手のことは、高校生や大学生になっても応援へ行っていますが、その選手達が過去の傷が原因で引退してしまったことがあります。
「同じような経験だから乗り越えられる」ではなく、「ここでもこんな目に合わないといけないのか」「自分は何のために、誰のためにこんなに頑張らなきゃいけないんだろう」と過去と現在で葛藤した末にスポーツを辞めてしまう。そのような選手も珍しくないのです。
指導者の暴言・暴力を防ぐ方法
本来ならば指導者は、子供達に「スポーツをする楽しさ」を教える役割を担っているはずなのですが、怒りという感情は「判断力」「決断力」を著しく低下させるため、一方的な技術指導をしてしまうことがあります。
そのような問題を解決するのに必要なことは「コミュニケーション」です。
不足している部分が不満になる原因であることが多いため、コミュニケーションで選手と指導者との信頼関係を築くことができれば暴言や暴力を防ぐことは可能ではなかろうかと考えます。
たとえば、感情的になった指導者は、選手がしたミスに対して「何やっているんだ!」と感情をぶつけてきます。それに対して選手は「すみません…」と口を開くのですが、本当に指導者がほしい答えは、未来に対する答えです。
「失敗した原因はどこにあって、次はこうすることで成功させます。」という未来に対する答えがほしいのです。
これが会話であり、コミュニケーションになります。
親から暴力根絶に対するアプローチ
コミュニケーションが暴力を根絶してくれる可能性があるとお話ししましたが、そうは言っても子供がそこまで予測して答えを導くことは正直難しいと思いますし、子供を守るためには大人の力が必要な場合もあるでしょう。
そこで親が対応する方法は3つあります。
- 指導者と保護者での話し合い
- 各都道府県にあるミニバスケットボール連盟へ相談する
- 日本スポーツ協会 スポーツにおける暴力行為等相談窓口への相談
指導者との話し合いの場を用意し、そこで解決できるのであればそれが一番です。ただ、そもそも暴言や暴力を良しとしている指導者は、今まで勝たせてきた実績や自分のコーチングスキルから、保護者よりも正確な判断ができていると思っているケースも多く、保護者達からの話を聞いたとしても自分の意見が正しいという前提を変えようとすることはほとんどないと言っていいでしょう。
そのような場合は2と3の方法になります。
2は日本ミニバスケット連盟ではなく、まず各都道府県に設置されてある連盟へ相談してみましょう。
それでも納得いかなければ、日本スポーツ協会が設置しています「スポーツにおける暴力行為等相談窓口への相談」へ相談してみましょう。
こちらでは専門の相談員の方が話を聞いてくれますので、何らかの解決の糸口が見つかるかと思います。
優先するべきことは子供の気持ち
今のチームを辞めるか残るかで悩んでいるということですが、しゅん君が住む地域に、バスケットボールのスクールや4校枠のないフレンドリーチームなどはないでしょうか?
決して今のチームを辞めることをすすめている訳ではありませんが、たとえ今のチームを辞めても「前へ進める選択肢」があることを教えてあげれば、子供自身の視野が広がり気持ちが楽になることがあります。
「今のチームでないとバスケを続けることができない」「バスケをするにはコーチからの暴言や暴力には我慢しなければならない」という選択肢しかなければ、お子さんにとってはとても辛いことでしかありません。
お近くにバスケットボールのスクールやフレンドリーチームあれば、こっそり覗いてみるといいかもしれません。
バスケットボールのスクールには同じような理由からスポ少より移動してきた子も多くいますし、正直言わせてもらうと、しゅん君の在籍するミニバスのコーチよりもメンタルを重要視した質の良いコーチがいらっしゃるかもしれません。
最後に
今回は 「スポ少指導者の暴言・暴力問題に親はどう対応するべきなのか」についてお伝えしましたがいかがでしたでしょうか。
このような問題はとてもデリケートな問題で、これから子供達の将来に大きく影響する可能性があります。
一昔前は暴言や暴力を良しとする時代もありましたし、いまだにそのことを良しとする指導者や親は自分が経験したことを子供にそのまま押し付けている傾向にあります。
しかし時代は明らかに変化しています。大人達はその変化に合わせて思考をアップデートしていかなければ子供達を守っていくことはできないのではないでしょうか。