こんにちは、メンタルトレーナーの葉月です。
スポーツをする子供達は「もっと強くなりたい」「本番で勝てる選手になりたい」との思いから日々の練習を頑張っているのだろうし、それを応援する保護者の方やスポーツ指導をするコーチ達も「ここぞという時に結果を出せる選手になってほしい」「最後までやり抜く力を身につけてほしい」と願って子供達と接していると思います。
私がメンタルトレーニングを行なっているチームのコーチや、そこに所属する選手、その保護者の方たちもそうです。
根性論だけで勝ち続ける時代は幕を閉じ、今は「心技体」全てのバランスが重要視されるようになり、ジュニア世代のスポーツ指導でもメンタル面を意識した指導が行われる時代となりました。
それものそはず、私たちの体は「脳から指令を受けることで筋肉を働かし体を動かす」という一連の動作でスポーツを行なっています。
つまりスポーツは体だけで動いているよう見えて、実は脳の働き(思考)が重要だということです。
バスケットボールのフリースローでいえば、ボールを構えた手や腕はもちろんのこと、全身の筋肉を使います。そして指先から足先までのすべての筋肉をタイミングよく動かすのは脳の指令です。
いくら練習でフリースローの成功率が100%に近くても、本番で「不安」や「恐怖感」を抱けば、全身に余計な力が入って、筋肉のバランスを崩した結果、シュート率は100%でなくなります。
試合中に「もう無理だ、勝てっこない」と考えてまうのも、スランプ時に「逃げ出したい」と考えてしまうのも脳の働きであり、逆に「よし!まだやれる!」と意欲を湧かせるのも脳の働きによるものです。
もちろんスポーツで体を鍛えることは大切ですが、その体へ指令を出す「脳」によって勝敗が左右されると言っても過言ではありませんし、そのためには心も安定していなければ成立しません。
そこで今回は「スポーツをする子供がココロを強くして本番で勝てる選手になる方法」について考えていきたいと思います。
心と脳の関係
嫌なことは思い出したくもないし、考えたくもない。だけど「不安」「悲しみ」「怒り」といった嫌な感情が頭から離れない。「早く気持ちを切り替えて前に進みたい!進まなければ!」と考えるのに、自分が抱くマイナスの感情がその邪魔をする。
このように脳とは自分自身のものでありながらも、中々自分の思うように動いてくれないものです。
スポーツをしている子供達は「練習が楽しい」と思う日もあれば、「練習が辛い」「今日は行きたくない」と思う日もあるでしょう。
それでも子供達はその感情を無視して練習に向うわけですが、そんな状態で練習に取り組むのと、前向きな姿勢で練習に取り組むのとでは「結果」に大きな差が生まれてしまいます。
その「差」をつけないためにも、日々の練習からメンタルを整えて脳をマイナス思考にしないことが大切です。
「実行脳」で判断し行動をとらせる
バスケットボールの試合でパスを受け取った選手は、受け取ったボールをどのようにさばくかを分析・判断した後に行動します。
練習で繰り返した自分の役割・配置、他の選手の役割・配置を瞬時に思いだしてプレーをするのが実行脳の働きです。
技術能力が高いという人はこの「実行脳」が人並み以上に優れているということになります。
実行脳は左右の真ん中に1本の溝があり、イメージを処理する右脳と分析や判断をする左脳に分かれています。
実行脳を使った繰り返しの練習で神経伝達スピードは増し、より正確になっていくのが人の脳ですが、実行脳は感情脳の影響を受けやすいともされています。
つまり、実行脳は鍛えることもできる反面、極度のプレッシャーやマイナスの感情が実行脳を弱くさせてしまうということです。
本番で結果が出せない原因とは
実は「良い感情」も「悪い感情」も、脳内にある「扁桃核」といわれる1.5cmほどの小さな組織が感情の状態を決定していると考えられています。
扁桃核を簡単に説明すると、物事に対して「好き」か「嫌い」を瞬時に見分けて判断する組織です。
練習が嫌でサボりたくなるのも、仲間や指導者によくない感情を抱くのも扁桃核の仕業で、扁桃核が不快になれば脳内も否定的になり、ポジティブな考え方ができなくなってしまいます。
脳が否定的になれば、失敗する自分が脳裏をよぎり「もしも失敗してしまったら…」「この試合に負けてしまったら…」とネガティブなことばかりを考えてしまいます。
そうなってしまえば、不安や焦りから体の自由は奪われ、思うようなプレーができなくなって本当に失敗してしまうという悪循環を招いてしまうことがあります。
スポーツをする上でメンタルを整えることが重要視されているのはそのためです。
扁桃核が「快」から「不快」に変わる瞬間
たとえ準備万端で挑んだ試合でも、コーチから否定的な言葉で怒鳴られた瞬間、多くの子供達の脳は「試合に対するワクワク」から「落ち込みや萎縮、不安」へと切り替わってしまうことがあります。
では、あるミニバスケットボール選手を例にお話ししていきたいと思います。
小学6年生になるその選手は、ミニバス最後の秋季大会に向け「僕もお兄ちゃんの時みたいに県大会で優勝する!」と朝の自主トレーニングに励んでいました。
目標を持って練習にも前向きな姿勢で取り組んでいたため、コーチからの評価もグッと上がり、その選手にとっては、まさに「最盛期」といえる時期でした。
それからしばらくして秋季大会の初戦で戦うチームが決まりました。
コーチはミーティングでその選手に「お前は5番のPGにつけ。前回のような試合は許さんぞ!」と指示を受けました。
そのチームとは過去3回戦ってきましたが、勝ったのは初戦だけ。回数を重ねる度にボロボロにやられていました。
3戦目でその選手は5番のPGの子に何度も抜かれ、挙句の果てには5ファールで退場する始末。彼にとって5番の選手は天敵ともいえる選手なのでしょう。
その時まで「県大会優勝~!」と前向きに頑張ってきたけれど「また、あいつか…。また抜かれたらどうしよう。退場だけはしたくない。またコーチから怒られる…。」と不安と恐怖を抱いてしまいました。
扁桃核は「怒り」「恐れ」「喜び」「悲しみ」などの感情を記憶する機能も持っていますので、この選手が痛い目にあったあの時のあの試合。その記憶がよみがえることで更に不安と恐怖を感じてしまったのでしょう。
見事に彼の扁桃核のスイッチが「快」から「不快」に変わった瞬間です。
子供達が力を発揮するために指導者が準備するものとは
今までは「脳の仕組み」についてお話ししましたが、彼のように脳のスイッチが「不快」に入ってしまうのは、周りにいる大人の言動にも原因があることが少なくありません。
たとえば指導者は選手達へ「挑戦しろ!」「チャレンジしろ!」というばかりで、選手が挑戦できる環境準備していないことが多くあります。
「もっと攻め気でいけ!」と言っていたコーチが、いざ選手が攻めるプレーをしたがボールを相手に奪われれば「何をやってるんだ!!」と選手を責めるなんて光景はよくあります。
これでは選手が挑戦できる環境を準備しているとは言えませんし、選手に「恐れ」や「不安」を抱かせて行動に制限をかけているだけです。
人の行動が鈍る原因の一つが「恐れ」なのです。「失敗したら怒られる」という恐れや不安が「迷い」となり、選手のパフォーマンスを低下させてしまうのです。
もちろん子供達のミスを全て良しとするべきだとは言いませんが、子供達が挑戦することは大人が想像する以上に勇気のいることです。もしも挑戦が招いた失敗を指導者や保護者の方が責め続ければ、子供達は挑戦することをしなくなってしまうだろうし、それはスポーツをする楽しさを子供達から奪ってしまうことに等しいのではないでしょうか。
もし失敗しても、そこから学べるものがあればそれでいいんだよと、「失敗した時の着地点」を準備してあげると選手はスポーツへもっと前向きに取り組めるのではないでしょうか。
脳を「快」の状態で保てる子
先ぼど話した選手を例にしても、多くの子供達は試合に負けるとマイナスのデータばかりを脳に入力してしまうので、脳はどんどん「不快」になってしまいます。
しかし扁桃核を「快」の状態を保つことができる選手が存在するのも事実で、そのような子供達が持つ特徴の一つに「負けず嫌い」という特徴があります。
負けず嫌いの子供達はそうでない子供達と違って、負けたことに対して「駄目だった」ではなく「次は絶対に負けない」という思いを脳に入力します。
つまり負けた相手に対しても脳が「不快」ではなく「快」になるのです。
そしてまた同じ相手と戦うときには「不安・恐怖」ではなく「雪辱のチャンス」だと快になる。
これが負けず嫌いの子供達が脳にある扁桃核を「快」に保つことができる理由です。
選手である子供達は「あいつの方が上手いから仕方がない」と諦めのいい選手になってはいけませんし、指導者や保護者の方は子供達に「不安」や「恐れ」を感じさせる言動をしてはいけません。
選手にとって悔しさとは大きなエネルギーなのです。敗北感をマイナス方向ではなく、強力なプラスの方向に変えられる負けず嫌いになることが、本番で力を発揮することにつながるのではないでしょうか。
「イヤなことは忘れる」も大切
「イヤなことは10歩あるく間に忘れる」
これはプロゴルフプレーヤーのタイガーウッズ選手の言葉です。
実はこれ簡単なようで意外と難しく、スポーツをするうえでかなり厄介なことなんです。
たとえばたった一つのミスから調子が悪くなり、次から次にミスをしてしまうという経験はないでしょうか。
その時の「きっかけ」は「たった一つのミス」だと思われがちですが、実はそのミスを引きずってしまっている自分自身に原因があるんです。
本番中のミスや指導者から言われたイヤな言葉、過去にした失敗など、そのような記憶は脳をネガティブなものにしてメンタルの乱れを引き起こしてしまいます。
だからといって無理に忘れようとしてもうまくいくわけがありません。忘れようとすればするほど残念なくらいに頭から離れないものです。
そこで利用するべきなのが、人の脳の仕組みです。
人の脳は「否定的な思考」と「肯定的な思考」が共存することはありませんので、忘れようとするのではなく、肯定的な思考で上書きすればいいのです。
よく「ピンチをチャンスに変える」などという言葉が使われますが、まさにそれです。
ピンチをチャンスにする選手の話
私がメンタルトレーナーとして携わっている中学男子バスケットボール部の選手に、チームがピンチ状態になった時ほど「覚醒」する選手がいます。
本人もそのことを自覚していて「俺は相手が強ければ強いほど覚醒する」「チームがピンチになった時ほど覚醒する」と言っています。
私は彼に「ピンチの時でも諦めずに力を発揮できる底力ってどこから湧いてくるの?」と聞いてみました。
すると彼は「チームがピンチの時こそ腕の見せ所だとワクワクするんです。自分は目立ちたがり屋ですから」と照れながら答えてくれました。
私は思わず彼に拍手しました。いくらセンスや才能があっても、諦めたり、心が折れてしまった選手は、このようにワクワク感を持てる選手には敵いっこないのです。