こんにちは、メンタルトレーナーの葉月です。
今回のテーマは「試合でのパフォーメンスと緊張の関係性」についてです。
「本番で実力を発揮したい」「折れない心が欲しい」などは、子供達がスポーツをするうえで誰もが掲げる課題だろうし、そんな子供達を応援する保護者の方やスポーツ指導をするコーチや監督も「本番でもいつも通りのプレーをしてもらいたい」「練習の成果を試合で出してほしい」との思いで指導を行なっているかと思います。
しかし現実は、本番になるといつも通りのプレーができなくなってしまったり、的確な判断ができなくなってミスを引き起こしてしまう選手も少なくありません。
皆さんもすでにお気づきかと思いますが、子供達がそうなってしまう原因の一つには「過度な緊張」があげられます。
スポーツをする子供達にとって「緊張」や「プレッシャー」と上手に向き合うことが、競技パフォーマンスを向上させるうえで重要だということは間違えありませんし、この課題はどんな選手にも当てはまることだと思います。
そこで今回は、選手が前向きになって自信へとつなげるために「試合前の緊張を和らげてパフォーマンスを上げる5つの方法」についてお伝えしたいと思いますので、本番で実力が発揮できないと悩んでいる選手や指導者、保護者の方は最後までお付き合いいただければと思います。
緊張するメカニズムを知る
まずは緊張をするまでのメカニズムについてお話したいと思います。
人が猿から進化をして直立歩行をし始めた頃、ライオンなどの肉食獣から襲われることが多々ありました。そのころ「危険に対する反応」つまり緊張のメカニズムができたと考えられています。
「ライオンから襲われるかもしれない」と脳が危険を察知したら、まず筋肉を固くして毛細血管を収縮させます。そうすることによって、ライオンから噛まれても一気に血が流れることがないからです。
そして心臓がドキドキするのは、体をいつでも動ける状態にするためで、胸が締め付けられるのは敵の攻撃から内臓を守るため、手に汗を握るのは猿だった名残からで木の枝をつかんで逃げやすくするためだそうです。
つまり、防衛できるような状態に体の機能を高めることが、緊張するまでのメカニズムとなり、人が不安や恐怖を感じた時にでてしまう体の反応だということです。
したがって、心臓がドキドキしたり、手に汗をかいた時は「やばい、緊張してきた」ではなく、「自分の体が戦闘モードに切り替わった」と考えるようにするといい結果につなぎやすくなります。
必要以上に緊張を感じてしまう原因
緊張やプレッシャーがパフォーマンスを向上させてくれることもありますが、ジュニア世代でスポーツを頑張る子供達はその逆で、パフォーマンスを低下させてしまうことの方が多く目立ちます。
子供達がスポーツをする中で「レギュラーになりたい」「エースになりたい」「県大会で優勝したい」「全国大会へ出場したい」など、夢や希望を抱くことは「スポーツをする醍醐味」のひとつだとも言えるでしょう。
しかしその夢や希望が終わってしまうのではないかという不安や恐怖、夢を実現できるのではないかという期待が、必要以上に緊張を感じさせてしまうことがあります。
私がメンタルトレーナーとして携わっている男子バスケットボール部にも「緊張と上手に向き合う方法」を知らずいたため、必要以上に緊張を感じてしまい「本番になるとフリースローが入らない」「頭が真っ白になってしまう」という悩みを抱えている子がいました。
選手「心臓がヤバいです。」
私「ヤバいって、何がよ笑笑。もっと分かりやすい日本語で説明して。」
選手「緊張が半端ないです。」
私「そりゃ試合なんだし、緊張くらいするでしょ。その何がヤバいの?」
選手「だって緊張するのってよくないんですよね?」
私「何でよくないの?」
選手「だって親にもコーチからも「緊張するな」って言われるし、自分でも緊張すると判断力が鈍って体の動きが悪くなるって感じます。フリースローなんて特に緊張しちゃいます。」
私「なるほどね…」
このように選手達が緊張してしまう自分自身を恐れてしまうのは、コーチや保護者の方から「緊張をすると動きが悪くなる」「緊張しちゃダメよ、落ち着いて」と声をかけられ続けた結果が招いた「思い込み」であって、根本的な原因はこの「思い込み」にありました。
試合前に緊張することは当然なのに、その緊張に対して「今の自分はよくない状態」「なんとか緊張を抑えなければ」と否定的な考えになってしまうことで、さらなる「不安」や「恐怖」「プレッシャー」を感じて自分ではコントロールができない状態をつくりあげてしまうのです。
パフォーマンスの低下が見られる主な場面と原因
先日、メールでこのようなご相談を受けました。
私がメンタルトレーナーとして携わっているミニバスチーム(小学校のバスケットボールチーム)の子供にも同じような悩みを持つ選手がいます。
ではまず、子供達のパフォーマンス低下が見られる主な場面をいくつかあげてみたいと思います。
- 絶対に負けられない試合に対する不安や恐怖心
- 大会当日1試合目の出だしでの不安感
- 試合後半に勝敗を過剰に意識してしまった時の焦り
- プレーの不調が続いていることに対する不安感
- 指導者や親からのプレッシャー
すでにお気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、これら全ての状況に共通するのは、自信がなく不安が高いという状態だということです。
つまり「緊張」を感じる原因には、「自信喪失」「不安向上」が大きな影響を与えるということです。
「良いパフォーマンスを発揮できない」「何度やっても失敗ばかり」などの状態が続けば悲観的になり、ネガティブな思考が増えます。そして失敗や自分への評価を必要以上に意識してしまい、判断能力を低下させしまうことにつながります。
するとミスを恐れてリスクを回避する「安全第一の戦い」になるため、積極的に攻めて行くことができない消極的なプレーになってしまい、選手としての成長を妨げてしまいます。
また、何度も練習してきた技に関しても、過度なプレッシャーによって失敗を恐れて慎重に行おうと自分の「動作」に意識を向けすぎてしまうことが失敗につなげてしまうケースもあります。
しかしスポーツに緊張はつきものですし、このような状態が続くからといって、今している競技に向いていないとか、能力がないなどと悲観的になる必要は全くありません。
このような緊張状態と上手に向き合うことができれば、集中力やパフォーマンスを向上させることが可能ですし、このような状態を克服した選手をたくさん見てきました。
では、これからどのような方法で緊張を向かい合って行くことがいいのかを具体的に考えていきましょう。
緊張とパフォーマンス
子供達は常に「緊張」や「プレッシャー」と向き合いながら戦っているわけですが、時に例外もあります。
それは「絶対に勝てる相手との戦い」です。
人は絶対的な安心感があれば緊張をすることも、プレッシャーを感じることもありません。しかし、パフォーマンスを最高に発揮できるかといえば、決してそうではありません。
気の緩みからいつもしないようなミスをしたり、スコアでは勝っても試合後のミーティングで選手達が指導者から雷を落とされている現場にもよく遭遇します。
このことからも分かるように「緊張していない状態=実力を発揮できる状態」だとは限らないということです。
先日ツイッターで、以前私が緊張のメカニズムを説明した選手から「やっと適度な緊張感の中で最高のパフォーマンスを発揮できるようになりました!」という報告を受けました。
これは彼が「緊張と上手く向き合うことができた」結果だと思います。
様々な研究からも、緊張を感じることでアドレナリンを分泌し、集中力を高め、パフォーマンスを向上させてくれることが分かっており、全く緊張を感じていない状態では、目の前のプレーやパフォーマンスにのめり込むほどの集中力を高めることができないとされています。
子供が試合で力を発揮するには
これまでの説明で「適度な緊張が子供の集中力やパフォーマンスを向上させてくれる」ということがお分かりいただけたかと思いますが、その緊張感に耐えきれなくなれば、体はもっとアドレナリンを分泌して、その結果、自律神経のコントロール機能がバランスを崩して「手に汗を握る」「呼吸が浅くなる」「不安や恐怖心からメンタルが乱れる」「普段しないような判断ミスをする」などでパフォーマンスに悪い影響を与えてしまうことがあります。
そして頭では「緊張をするメカニズム」を理解しても、やはり「緊張に強い選手」と「緊張に弱い選手」は存在します。
緊張に強い子というのは、経験値が高いことはもちろんのこと、今までの実績や成功が自信となっているため、緊張やプレッシャーに対しても動じず対処できる傾向にあります。
しかし、今までに大きな失敗をしてそれがトラウマになっている子や、指導者や親から常にプレシャーをかけられている子は「不安」や「恐怖心」が強いため、まずは心の「安心」と「安定」が第一優先になります。
そのような選手には「もし失敗しても、そこから学べるものがあればそれでいい。挑戦することに意義があるんだから」と失敗した時の着地点を準備してあげたり、大人達が結果を求めて子供の気持ちを置き去りにしないようにすることが大切です。
子供が緊張と上手に向き合う5つの方法
では次に、子供が実際に「緊張と上手に向き合う方法」についてお話ししたいと思います。
ただし、これらの方法を全て完璧に実践する必要はありません。
ジュニア世代の選手がメンタルトレーニングを行ううえで気をつけたいことは「子供の歩幅に合わせて行う」ということです。
親が「あれもした方がいい」「これもした方がいい」と一度に多くのことを求めてしまえば、そのことが子供にとってプレッシャーになれば本末転倒です。
まずは子供の精神的負荷が軽くなる程度のことからスタートしてみましょう。
緊張した心の整え方
人が緊張するメカニズムから分かるように、緊張とは 「人間の本能的な反応」ということになります。
その本能に逆らっても、いい結果につながることはなく、マイナスに作用する危険が高まります。
そんな時は「緊張をしてはいけない」と自分の本能に逆らうよりも、緊張している自分を一度受け止めたうえで、「リラックスしよう」と心を整えることが大切です。
「緊張をしてはいけない」という考えでは、緊張している自分の姿が脳に残ってしまいますし、「〇〇をしてはいけない」といった否定的な思考は、マイナスにしか作用しません。
メンタルを整えるうえで大切なことは、「リラックスしよう」と肯定的な考え方を持つこと、つまりリラックスをして、メンタルを整えている自分を想像できることが大切なのです。
イメージトレーニングで不安を上書き
不安や恐怖心を抱いてしまったら、それをいくら脳から消し去ろうとしても、そう簡単には消えてくれません。
むしろ、考えたくないと思えば思うほど、頭の中で「こうなってほしくない」「あの時のようなミスをしてしまったら」と考えてしまうものです。
このように人がイメージしたことは、無意識のうちに行動へ現れてしまうため、不安が現実になってしまうことも少なくありません。
試合前には、脳内で「こうなってほしい」という試合をイメージして、不安をワクワク感で上書き保存をし、脳内のイメージを良いものにしておきましょう。
また、常に自分の思うような試合展開になるようなことはまずありません。
そのため接戦や苦戦をイメージして心の準備をしておくことも必要になります。不利な状況になる可能性があることも想定しておけば、そのような状態になった時に「緊張」「不安」「恐怖心」を促進させることがありません。
試合前はいつもと同じリズムで
試合前の過ごし方も、本番で力を発揮するためには、大切な準備のひとつです。
仲間とダラダラ過ごして緊張感が全くないのも問題ですし、試合前だからと気合いを入れすぎることも逆効果になる場合があります。
パフォーマンス低下の原因となった「特別行動」
これは、私がメンタルトレーナーとして1ヶ月間だけ携わった、中学男子バスケットボール部のお話です。
私がこちらのコーチからメンタル指導をお願いされたのは、公式戦になると選手が妙に緊張してしまい、いつも通りのパフォーマンスが発揮できず、結果がついてこないという理由からでした。
平日は学校が終わってから練習を行い、週末は練習試合やカップ戦へ行き練習の成果を確かめる。どこのチームもこの繰り返しの中で、心身共に鍛えられ強くなっていくのだと思います。
もちろん今回携わったこちらのチームもそうでした。
顧問やコーチが威圧的な態度で指導するわけでもなく、選手達の精神面や体力面で目立った問題もありませんでしたが、1点だけ気になった点がありました。
このチームは大切な試合、つまり「公式戦の時だけの特別行動」が多いという点でした。
公式戦前日にはチームでミーティングをしてそれぞれに目標を掲げさせます。そして試合直前はエンジンを組んで気合いを入れさせますし、ほとんどの保護者がチームTシャツを着て選手を激励します。
私は、選手の動きを不調にする原因のひとつはこの「特別行動」にあるのではないかと考えました。
選手に目標を掲げさせることも、チームが一丸となるためにエンジンを組む事はとてもいいことです。
「では何がいけないのか?」ということですが、それは練習試合やカップ戦ではしないことを、大切な試合だからと「特別なことをする」という点に問題があります。
どうしてわざわざ普段しないことをして「絶対に負けられない試合」だと自分達を追い込む必要があるのでしょうか。
もちろん「気合いを入れる」という意味で行っているのでしょうが、特別なことをしなくても「公式戦」であるという事実だけで選手達は十分に気合いが入っているはずです。
それにチームでのミーティングは常に行って目標を曇らせないようにすることが大切ですし、公式戦の時にエンジンを組みたいのであれば、練習試合でもカップ戦でも組むべきだし、もし組まないのならいっそ公式戦でも組まないほうがいいでしょう。
保護者の方の応援は子供達にとって大きな力となりますが、いつもと同じように接してあげることが大切です。
こちらのケースだと、わざわざ自分達で「緊張の種」や「プレッシャーの種」をまいているようなものなのです。
大切な試合、特別な試合だということに間違いはありませんが、 いつもと同じリズムでいつもと同じ精神で試合に挑むことが、本来の持つ力を発揮するにベストな状態だと言えます。
緊張は笑顔と深呼吸で乗り切る
何をどう考えても気持ちが落ち着かない時は、トイレに行って自分の顔を鏡で見てみましょう。きっと強張っているはずです。
そんな時は、まずゆっくりと深呼吸をしてみます。そして鏡に映っている自分に向かって最高の笑顔で「大丈夫だよ。やるべきことをするだけ!」と話しかけてください。
そのうえで冷静に考えてみましょう。
試合中にライオンが襲ってくることなんてあるでしょうか。緊張の反応とは、生命の危険がここにあるかのように、自分の脳が作り出したものにすぎません。
心拍数は呼吸によって変化するため、呼吸を深くし、ゆっくり吐くことで心拍数は下がります。
心を整えるうえで深呼吸をすることは、メンタルを整えるのに大きな効果が期待できるとされています。
極度の緊張を感じた時は、ゆっくりと深呼吸をして「ここにライオンはいない」と自分の脳に教えてあげましょう。
ミスがある前提で試合に挑む
何もかもが自分の希望通りに試合が運ばれるとは限りません。むしろ「相手チームの戦略」「自チームのミスや失点」など想定外の出来事の方が多いのではないでしょうか。
スポーツをするうえでポジティブであることはとても大切ですが、自分達にとってよくないことが起こることも前提で試合に挑まなければ、実際にトラブルが起こった時に、慌てふためいて平常心を保つことができなくなってしまうでしょう。
試合で力を発揮するためには、ポジティブでいるべきだけど「ネガティブな面も視野に入れて戦う」ということは相反することのように感じるかもしれませんが
- 「ポジティブになること」
- 「ネガティブになること」
- 「どちらも想定したうえでポジティブでいること」
この中でどの方法が様々なことに対処できるかは説明するまでもないと思います。
それは「ミスをしてもいいんだ!」という甘え考えを持つことではなく、 ミスが起こっても臨機応変に対応できる心の準備を整えておくということです。
その準備がきちんとできていれば、ピンチになった時も心が折れることなく挑戦し続けることができるのでないでしょうか。
まとめ
今回は「試合前の緊張を和らげる5つの方法」についてお伝えしましたがいかがでしたでしょうか。
多くの子供達は「緊張」に対して良くないイメージを持っていて、「緊張をすることはいけないこと」だと思い込んでいますが、緊張のメカニズムを理解して、心を整える方法を身につけることができれば、スポーツを続けていくうえでも、社会にでてからも自分の強みとなってくれるはずです。
極度の緊張を感じたときは、まず深呼吸。そして肯定的な思考で試合へ挑めるよう心を整えましょう。