日本バスケット連盟(JBA)より「ゲーム中のコーチによるプレーヤーの暴言・暴力的行為に対する対応方針(ガイドライン)」が公表されましたが、2012年12月に起こった桜宮高校での体罰事件を思い出した方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
今回の改正に伴い様々な意見が聞かれますが、今回のルール改正はあくまでも「きっかけ」にしか過ぎませんし、私達は体罰が子供達へどのような影響を及ぼすか本当の意味を理解する必要があると思います。
今回は「体罰が及ぼす本当に恐ろしい罠」について考えていきたいと思います。指導者の方だけでなく、選手や保護者の方にも考えていただきたい内容となっておりますので最後までお付き合いいただければと思います。
運動部活動における体罰・暴力に関する調査報告書(全国大学体育連盟)
桜宮高での体罰事件が発覚し、2013年1月これを契機に文部科学省は「運動部活動の在り方に関する調査研究協力者会議」を設置し、体罰や暴力の再発防止の検討を始め、同年5月に「運動部活動での指導のガイドライン」を含めた調査研究報告書「運動部活動の在り方に関する報告書」を公表しました。
さらに全国大学体育連盟が大学・短大生を対象に「体罰」に関する調査を行い、以下のようなことが報告されています。
運動部活動経験者3638名に対しての調査結果
体罰を経験したことがあるか?
体罰を受けたと答えた学生は、全体の20.5%(男子22.0% 女子13.1% )
体罰を受けた時期
小学生 | 28.7% |
中学生 | 59.1% |
高校生 | 54.0% |
大学生 | 5.8% |
体罰に至った経緯
1番回答の多かったものから順にあげていきますと
- ミスをした場合・・・28.5%
- 試合やプレーの成績や内容・・・9.4%
- 自分が悪い・・・9.0%
- 理不尽な理由・・・7.6%
- 無気力なプレーをした場合・・・5.9%
などで、その他には「理由はわからない」「チームの規律を乱した場合」「指導者の言うことを聞かなかった場合」などがありました。
体罰を受けたその後どうなったか
- 精神的に強くなった・・・58.4%
- 反抗心を持った・・・35.4%
- 技術が向上した・・・22.5%
- 指導者の気持ちがわかった・・・19.8%
- プレーが萎縮した・・・17.8%
- 体罰・暴力を受けることが不安になった・・・16.1%
- 試合に勝てるようになった・・・10.7%
運動部活動中の体罰・暴力は必要か
- 必要 40.9% (男子 51.7% 女子32.0%)
- 不要 57.3% (男子 43.1% 女子 66.5%)
体罰・暴力が必要だと思われる場面
1番多かったものから順にあげていきますと
- 危険な行為をした場合・・・39.3%
- 礼節が守れない場合・・・29.5%
- 日常生活で不適切行為があった場合・・・29.3%
- チームの規律を乱した場合・・・28.2%
- 無気力なプレーをした場合・・・22.7%
などで、その他には「練習などで指導者の言うことを聞かなかった場合」「試合に負けた場合」「遅刻や欠席の理由が不可避でない場合」などがありました。
体罰で選手が受ける影響とは
今回の調査から、体罰を受けることでプレーが萎縮したり、体罰・暴力を受けることが不安になった、反発心を持ったとの回答がありましたが、今回の調査結果で1番懸念されるのは、精神的に強くなったと感じた学生が過半数いたということです。
そしてさらには、運動部活動中の体罰・暴力は必要かという質問に対し、40%の学生が必要だと感じているということがこの調査から分かります。(男子のみ回答では51%)
しかし、こちらの調査対象者は「大学・短大生」で、現在進行形で体罰を受けている者は少なく、これらの回答は「体罰を乗り越えた選手」「体罰に耐えてきた選手」「体罰を受けたことのない選手」でいずれも過去の振り返りに対する回答になります。
今回の学生達が体罰を受けている時期も本当にそのように感じていたかは今となっては誰にも分かりません。
当時はとても辛かったけれど、今が充実していれば過去の辛さも「いい経験」として捉えてしまう傾向にあり、「耐えることが美徳」とされている日本の風習から、多くの指導者、保護者、選手がそれを求めてしまう傾向にもあり、それは日本のスポーツ界が残してしまった負の遺産だと言えます。
体罰や暴力がなければ、体罰や暴力を使わなくても選手を正しく育てられる指導者に出会えていたのなら、もっと素晴らしい成果を残すことができたのかもしれませんし、スポーツはそうあるべきだと思います。
また、選手であった子供達には将来スポーツ指導に携わる者も出てくるかと思いますが、スポーツ指導で体罰・暴力が必要だと感じている学生が指導者になることは、とても恐ろしい事です。
そのため選手である子供達にも、学生の時期から「体罰に対する正しい認識」「スポーツの意義」をしっかり意識させることが大切だと考えます。
桜宮高で起きた体罰問題
2012年12月、桜宮高校のバスケットボール部キャプテンが、顧問の体罰を苦として、自ら命を絶ってしまうというとても悲しい出来事が起こってしまいました。
その生徒は、大阪の中学ではトップクラスの選手で、入部時にも話題になるような部員だったそうです。
そして桜宮高は全国大会に何度も出場している名門校で、彼も「全国大会に出場したい」という夢を抱いて入部したそうです。
しかし、その生徒を待っていたのは、顧問による暴言・暴力でした。
メディアでは顧問がその生徒に何度も平手打ちをする動画が公開されましたが、男子生徒はその試合の翌日に首をつって自らの命を絶ったそうです。
そのことに対し当時の顧問は「自分自身では選手も保護者も理解していると思っていたので、その当時は体罰という認識がありませんでした」「平手打ちの理由は“しっかりせえ!”という思いから」「強い部にするためには体罰は必要で、それによって生徒をいい方向にに向かわせるという実感があった」などと語りました。
体罰に耐えれる選手が強くて、体罰に耐えられない選手が弱いとすれば、スポーツにどれほどの価値があるというのでしょうか。
当時の顧問には「懲戒免職処分」、暴行・傷害の罪での起訴で「懲役1年・執行猶予3年」の判決が言い渡されましたが、この短い期間で罪を償ったと勘違いしてもらいたくありませんし、この出来事は私たち子供達のスポーツ指導に携わる者は絶対に忘れてはならない事件だと思います。
まとめ
今回は「体罰が及ぼす本当に恐ろしい罠」についてお伝えしましたがいかがでしたでしょうか。
私たち大人は目先の問題に捉われがちですが、実はもっと深い部分にも問題点が隠れているということが、国大学体育連盟の「体罰」に関する調査で明らかにされました。
まだまだ日本のスポーツ界には課題がたくさんありますが、少しでも子供達の未来を守って、少しでも子供達に希望ある未来を持ってもらえるようにすることが、子供達のスポーツ界に携わる大人の使命ではないでしょうか。