コーチに対するテクニカルファウルで指導者意識を高められるのか?

メンタルトレーナーの葉月です。

先日、日本バスケット連盟(JBA)より「ゲーム中のコーチによるプレーヤーの暴言・暴力的行為に対する対応方針(ガイドライン)」が公表され、試合中の反則を厳格に適用するなどし、暴言・暴力根絶に向けた取り組みが行われました。

私が初めてこの内容を見た時は「やっとJBAも本格的に動いてくれたか…。」と言うのが正直な思いで、これでスポーツの現場がより良いものになればいいなと心からそう思いました。

しかし、ある方からの言葉にすごく考えさせられることがありましたので、今回はそのことについてお話ししたいと思います。

人は行動をするだけで何かを解決した気になってしまうことがありますが、JBAの掲げる「ゲーム中のコーチによるプレーヤーの暴言・暴力的行為に対する対応方針(ガイドライン)」は、スタート地点に過ぎません。

このような「掲げ」で全てが解決するほど単純な問題ではないし、実際の現場を良くするには、もっと根本的な解決が必要だと感じました。

それと同時に「やはり子供の犠牲に成り立ってしまうのか…」と言うのが私の正直な印象でした。

今回は「ゲーム中のコーチによるプレーヤーの暴言・暴力的行為に対する対応方針(ガイドライン)」は本当に子供達の未来を守れるのか、そして指導者の暴言や暴力を撲滅することができるのか、という点について考えていきたいと思います。

ゲーム中のコーチによるプレーヤーの暴言・暴力的行為に対する対応方針(ガイドライン)

JBAが公表した「ゲーム中のコーチによるプレーヤーの暴言・暴力的行為に対する対応方針」は以下のような内容になります。(一部抜粋あり)

JBAでは、インテグリティの精神(誠実さ、真摯さ、高潔さ)に則り、「クリーンバスケット、クリーン・ザ・ゲーム」を推進していきたいと考えています。これは、ゲームに関わるプレーヤー、コーチ、レフェリー全ての協力でゲームの価値を高めようとする取り組みであり、ゲームを尊重する精神「リスペクト・フォーザ・ゲーム」にそったものであります。

バスケットボールのゲームは、ゲームに関わる関係者のみならず、観客の存在も欠かすことができません。

プレーヤー、コーチ、レフェリー、観客も含めてゲームの価値を高める努力をすることが必要です。

そして、そのためにはコーチの振る舞い(行動や行為)も非常に重要になってきます。

コーチの振る舞いは、ゲームに関わる関係者(プレーヤー、レフェリー)に直接影響があるだけでなく、ゲームを観ている観客の方々にとっても大きな影響を与えます。

そこで、コーチの振る舞いについてある一定の基準を設けてテクニカルファウルの対象とし、ゲームの価値を下げない取り組みを推進することとしました。

テクニカルファウルの対象となる振る舞い(行動・行為)

1.コーチのプレーヤーに対する暴言

  1. 人格、人権、存在を否定する言葉
  2. 自尊心を傷つける、能力を否定する言葉
  3. 身体的特徴をけなす言葉
  4. 恐怖感を与える言葉

2.コーチの暴力的振る舞い(行為・行動)

  1. 殴る・蹴るなどを連想させる行為
  2. プレーヤーと近接(顔の目の前、腕一本分より近い距離)して高圧的威圧的に指導する行為
  3. 「おら!」「こら!」と大声でプレーヤーを高圧的威圧的に指導する行為
  4. 継続的、かつ、度を超えた大声でプレーヤーを指導する行為、いわゆる怒鳴りつける行為
  5. 物に当たる、投げる、床を蹴るなどの行為

3.第三者が不快と感じる振る舞い(行動・行為)

  1. 不潔な服装、裸足やスリッパでの指導

日本バスケット連盟(JCB)ガイドライン参考資料4より

バスケット指導での暴言・暴力問題の実態

2012年に大阪市立桜宮高の男子バスケットボール部員が指導者による体罰が原因で自ら命を絶つという事件が起きましたしが、その後も状況が大きく改善されることはなく、2014年から日本スポーツ協会に寄せられた暴言・暴力に関する相談は300件以上になり、その中でもバスケット関連の事件が最も多く報告されています。

バスケットボールはサッカーのようにコートが広くありませんし、また屋外であることも体罰問題が起きやすい環境と言われていますが、そのような環境を言い訳に「仕方のない振る舞い」だと黙認することは間違っていますし、インテグリティ委員会の宇田川委員長がおっしゃるように「試合はバスケットの一部に過ぎないが、まずは目に見えるところからアクションを起こす。」ということも一つの対応策なのかとも思います。

しかし今回の取り組みは、指導者が自発的に暴言・暴力をやめようと思わせるには不十分な内容ですし、これからもスポーツ指導のあり方を考えて行かなければ子供達の未来を守ることはできないと思います。

今回の取り組みは誰に対する罰なのか?

「コーチの振る舞いについてある一定の基準を設けてテクニカルファウルの対象とし、ゲームの価値を下げない取り組みを推進する」とあり、その内容はコーチに対する「罰」のように思えますが、指導者がテクニカルファウルを取られることで罰を受けるのは指導者本人だけではありません。

テクニカルファウルを取られれば、相手チームに2投のフリースローが与えられ、シュートの成功・不成功に関わらずオフィシャルテーブルの反対側のセンターラインのアウト・オブ・バウンズから、フリースローをしたチームがスローインします。

このような状況が起これば、子供達は動揺して心は乱れるでしょう。そしてその2点が勝敗を左右することだってあるでしょうし、子供達が一生懸命プレーで守ってきたものが、指導者の振る舞いで簡単に壊れてしまうのです。

暴言や暴力にも同じことが言えますが、今回のことでも「子供の犠牲がつきもの」になってしまい、これでは根本的な問題が解決できるということにはならないと思うというのが私の考えですが、皆さんはどうでしょうか?

指導者以外にも「保護者の振る舞い」も問題点の一つとしてあげられますし、その他の環境も例外ではないと思います。

これから子供達がするスポーツをより良いものにするために、これから私たちが本当に考えるべき問題点や改善策は何だと思いますか?

スポーツ関係者から寄せられたご意見

バスケット関係者の方から寄せられたご意見をご紹介したいと思います。

審判が指導者と保護者の板挟みになるのでは?

確かにマナーの悪い指導者はいます。それは間違えありません。しかしそれは保護者の方も例外ではないと思うんですよね。実際に応援席から審判のジャッチに文句を言っている方を見ますし…。

だから今回のルール改正は審判の方にとってはとても大きな負担だし、私の率直な感想は「えっ!?審判に丸投げ!?」って感じでした。

テクニカルを吹けば指導者に睨めれ、暴言や暴力を見逃せば、保護者から文句を言われ…。そんな板挟みになるのでは?と思いますし、このことを審判に押し付けるのは連盟が少し無責任すぎるのでは?と思います。

審判は本当にテクニカルを吹けるのか…

ローカルの大会では帯同審判同士が親しかったりするので、テクニカルは難しいのでは?と予想しています。

要は大人の人間力

現場でもこの話が話題になります。実際の現象が起こっても審判がテクニカルをコール出来るとは思えません。記載されているよという抑止力になれば良いかなと思います。

確かにコーチや保護者の暴言は見ていて不快ですね。ルールで規定する事よりも大人の人間力を磨かないとダメかなと。

子供を第一優先に

審判がコーチにテクニカルなんて、あまり見たことがないような…。結局、暴言をやめられない指導者は審判より上の方だったりするので、怖くて吹けない…という話も聞きました。

子供第一に考えてくれる大人が指導者にも審判にも保護者にも、増えていかないと…なのかなって思っています。

ライセンスに対する処分や見直しが必要では?

きっかけとしては十分だと思うけど、根本解決でないのは明らかなので、恥ずかしい行為であり選手の将来を捻じ曲げる行為だと認識してもらうために、ライセンスの厳格化、義務化、リフレッシュ研修、講習の義務化。暴言・暴力はライセンス剥奪まで必要だと思います。

コーチ資格制度の構築見直しを

おっしゃる通りで試合=選手にも多分に影響がでる事があると私も感じます。

ルール改定は良しとしてこの問題点である根幹がどこにあり、どう解決していくか?この事が重要かと考えます。
要は「自分がもともとやっていた!こんな練習だった。厳しかった!」これを見直しもしないで指導したのが間違えだと考えます。このようなことから私が考える改善策は、きちんとしたコーチ資格制度の構築かと思います。

スキルだけでなく、メンタル、フィジカル、ケアーなど総合的に判断し、ミニバス指導をするにあたり必要なことを学んでもらいたい。その中で今回のテクニカルファウルではなく、そういう指導者は、残念ながら指導期間の喪失→免許の免停くらい厳しい処置をしなければと考えます。

それくらい責任ある立場なんですよと分かってもらいたいです。バスケを通じて知り合った子供に夢を持たせる、指導スキルがあっての指導者なんですから。

表面的な解決だけは何も変わらない

今回の事がある意味「きっかけ」となって、今の状態が少しでも改善すれば良いと思いますが、基本的に子供に服従させたいと考える指導者は何があっても変わらないような気がします。

自分自身もそのような指導者のものとで、ミニからバスケを学んできましたが、高校での顧問に出会わなければ、そのような指導しか受けなかった訳で…。本当に恐ろしいなって思います。子供は自分がされていることは「愛情」だと思いたいし、「自分を嫌っているから」なんて思いたくないわけですよ。

だから我慢しちゃうし、理不尽に感じても服従してしまう。その点を指導者がしっかり理解する必要があると思うし、そのことをしっかり自覚するための場所があれば良いなと思います。

まとめ

今回は「ゲーム中のコーチによるプレーヤーの暴言・暴力的行為に対する対応方針(ガイドライン)」は本当に子供達の未来を守れるのか、そして指導者の暴言や暴力を撲滅することができるのか、という点についてお伝えしましたがいかがでしたでしょうか。

色々な立場や環境で考え方は様々ですし、どのご意見もごもっとだなと感じました。

今回の連盟の決断は決して間違っているとは思いませんし、何か前に進むことは大切なことだと思います。

ただ、今回のルール改正の本当意味をもっとたくさんの人が考えていく必要があることは確かだと思います。