コーチや監督が技術面での指導をすることはとても大切だし、コーチや監督でないとできないことだとも思います。
しかしそれが、ジュニア世代の選手となれば、技術面の指導だけでなく「体のケア」と「心のケア」に対する知識も必要となります。
選手のオーバーユースによるパフォーマンスレベルの低下、クールダウンの時間を惜しんで練習時間にあてた結果が招いた選手のケガ、メンタルケアを無視した暴言・暴力などを使っての指導。
残念ながらいまだにスポーツ少年団の現場には、このような実態が多く存在しています。
技術面での指導ばかりに目が行く気持ちも十分に分かりますが、選手が小学生であれば尚のこと、体調管理にも気をつけてあげる必要があります。
練習時間も練習場所も指導者の考えで保護者や選手たちは動きます。睡眠時間を削ってまで練習してもいい結果は出ません。
結果の出せる選手を育てたいのであれば、指導者の方はプレーの知識だけではなく「体・脳・心」についての知識も身につける必要があることは間違いありません。
今回は、 その中でも子供の成長に大きく影響する「睡眠」について考えていきたいと思います。
睡眠のしくみ
「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」という言葉を聞いたことはありませんか?
レム睡眠とは眠りの浅い状態で体を休める睡眠に対し、ノンレム睡眠とはぐっすり寝ている状態で脳を休める睡眠になります。
眠りにおちてすぐに深い眠りのノンレム睡眠になり、次に浅い眠りのレム睡眠になります。
レム睡眠の持続時間は子供だと5~40分くらいと考えられており、その後ノンレム睡眠の状態になるというサイクルが70~110分で繰り返されます。
レム睡眠で技能を習得する
スポーツなどの運動技術は「体と脳で覚える記憶」になります。
「パスを出すタイミング」
「力のかけ方」
「バランスのとり方」
「ジャンプをするタイミング」
「正しいフォーム」
などの技術的な記憶は、主に睡眠中のレム睡眠時に脳で整理されインプットされます。
しかし睡眠が不足した状態になると、人間の脳はレム睡眠より深い睡眠となるノンレム睡眠を優先させてしまうため、レム睡眠はうまく現れなくなります。
つまり睡眠不足になるとレム睡眠が少なくなるため「体と脳で覚える記憶」が十分に整理されずインプットされないということです。
その結果、せっかく 練習しても効率よく技術を向上させることができないということになってしまうのです。
レム睡眠の働き
浅い眠りで身体は深く眠っているのに、脳が活発に動いている状態
- 筋肉の疲労回復
- 脳を動かして情報の整理や記憶の固定をしている
- 脳は働いているのでこの時目覚めるとすっきり起きられる
ノンレム睡眠の働き
深い眠りで脳も身体も休んでいる状態
- 疲労回復
- ストレスを消去している
- ホルモンの分泌をしている
- 脳細胞の修復・改善
これらの事から分かるように、技術の向上を得るには「睡眠」も重要なトレーニングのひとつだと言えます。
睡眠不足がパフォーマンスの低下に
「判断力」「記憶力」「やる気」「意欲」を引き出すのは「前頭葉」の働きによるものです。
そして良くも悪くも、睡眠が一番最初に影響するのは「前頭葉」だと考えられています。
子どもの生活時間の夜型化や睡眠時間の減少は、成長の遅れ・注意や集中力の低下・眠気・易疲労感などをもたらします。睡眠を妨げる肥満による睡眠時無呼吸症候群は、子どもにも増えています。適切な睡眠習慣と健康に関する知識を啓発していく必要があります。
引用元:厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト
また、脳の記憶や空間学習能力に関係のある「海馬」も、成長段階ではまだ発達の途上で、睡眠の質が良いか悪いか、足りているかどうかで、その発達にも影響しているという報告があります。
睡眠中に分泌されるホルモンの種類と働き
睡眠中には、成長や代謝などに関わる何十種類ものホルモンが体内で分泌されています。その中でも子供の成長とスポーツに大切な3つのホルモンとそれぞれの働きについていご説明したいと思います。
成長ホルモン
成長ホルモンは、成長作用とたんぱく質合成を促進する作用があり、体の成長、修復、疲労回復にとても重要なホルモンです。
成長ホルモンは脳下垂体から分泌され、 骨や筋肉の成長を促したり、身体の疲労回復や傷んだ組織の修復を行う働きがあります。
成長ホルモンは、1日を通じて、1~3時間ごとに分泌されていますが、ゴールデンタイムは寝ついてから3時間くらいで、深い睡眠時に最も多く分泌される事が分かっています。
また強度の高い運動を行なうと、血中の成長ホルモン濃度は200倍程度に増加し、睡眠中と同程度に増加すると言われています。
メラトニン
睡眠中に分泌されるホルモンで、日々の眠りの質を良くしてくれる「メラトニン」というホルモンがあります。
メラトニンには、体内時計に働きかけることで「覚醒」と「睡眠」を切り替えて自然な眠りを誘う作用があります。
人の体は、 朝日を浴びて約15時間後にメラトニンの分泌が高まるようになっています。
たとえば朝6時に起きて朝日を浴びると、21時頃から分泌が高まり始めるということです。
つまり朝日を浴びて規則正しく生活することで、メラトニンが分泌される時間や量が調整され、人の持つ体内時計の機能が調整されるということです。
また、メラトニンは日光を浴びると減少し、暗くなってくると分泌量が増えます。
遅い時間まで明るい環境にいると、メラトニンの分泌が抑えられてしまいますので、夜は暗めの環境で過ごすことが「よりよい眠り」へとつながります。
さらにメラトニンには、思春期の訪れを遅くする働きがあります。
一般的に思春期の訪れが早い子と比べ、思春期の訪れが遅い子の方が最終身長は高くなる傾向があります。
身長を伸ばす可能性を高めるためには、思春期の訪れを遅くする働きを持つメラトニンがしっかりと分泌されるように、生活習慣・睡眠のリズムを整えることが大切です。
コルチゾール
コルチゾールは、 体内環境を睡眠から活動モードへと切り替える働きがあります。
眠りについてしばらくは分泌が抑制され、明け方から起床前に分泌が最も高まります。
つまりメラトニンと反比例の関係にあるということです。
コルチゾールは体内のエネルギー消費を促進し、睡眠中に低下した体温や血糖値を上げて、快適な目覚めに備えてくれます。
また、眠りにつく前に「明日は何時に起きる!」と強く思えば、アラームが鳴る前に目が覚めたという経験はありませんか?
これは決めた時間帯が来る前に、コルチゾールの分泌量が多くなるためです。人は寝る前に意識することによって、朝起きる準備を体にさせることができるのです。
睡眠不足に悩む子供達
本来、夜になると脳の中で眠りを促すホルモンが分泌して眠くなり、朝になると覚醒ホルモンが出て目覚めます。
しかしスポーツ少年団やクラブチームに所属している子供達は、練習が終わってからお風呂に入って、夕食を済ませて、宿題をして…気が付けば「もぅ、こんな時間!?」ってことも。
このような睡眠不足がきっかけとなって、分泌されるホルモンのリズムが乱れ、夜眠れなくなり、朝起きたくても起きられなくなる。このような睡眠障害に悩む子供が、現在急増していると言われています。
健康な体を維持してこそスポーツも続けられるし、強くなることができるのに、このような状態に陥ってしまえば本末転倒です。
その日の疲れはその日に解消できるよう、睡眠の大切さをしっかり理解して質のよい睡眠を心がけましょう。
睡眠の質を高める方法
睡眠の質を高めるには以下のようなものが効果的だとされています。
- 寝る1時間前は、テレビ・パソコン・スマホを控える。
- 寝る1時間前に照明を暗めにする。
- 寝つきが悪い時はホットミルクを飲む
- 寝る前の激しい運動は避ける
- 遅い時間の夕食や夜食は控える
- 朝日はしっかり浴びる
- 睡眠の長さがよりも早寝早起きが大切
夏休みなど長期のお休みが続く時は特に注意し、生活リズムを乱さないようにしましょう!
ジュニア世代の指導者の方へ
こちらは私の信頼するバスケットボール指導者の方からのメッセージです。
ジュニア世代で行われているスポーツ指導の中には「オーバーワーク美学」がいまだに存在し、「あんだけやっているんだから負けるわけがない」と話す監督やコーチの方も少なくありません。
しかし、ジュニア世代で行われているスポーツは「はじまり」「きっかけ」であり、休息・食事・睡眠の管理と、今しているスポーツを好きになってもらうことが大切ではないでしょうか。
指導者や保護者の方々には「揺らがない信念」、但し「間違っていない信念」を持っていただきたいと思いますし、それが最初に携わる指導者の責任であり、保護者の方には暖かく過度にならずサポートしていただきたいと考えます。
まとめ
今回は「危険!!睡眠不足がスポーツをする子供の運動能力を低下させる!?」についてお伝えしましたが、いかがでしょうか。
スポーツはただ運動技術を向上させようと厳しいトレーニングするだけで、効率よくパフォーマンスの向上を目指すことはできません。
選手の運動能力の向上や維持には、「休養」も大切なトレーニングのひとつなのです。