こんにちは、メンタルトレーナーの葉月です。
今回のテーマは 「試合中の言葉かけ」についてです。
選手のメンタルは、チームの勝敗を決める重要なものとなり、そこにはコーチや親の言動が大きな影響を与えるのですが、まだまだ本当の意味でその正体がよく知られていません。
そしてよく知られていないのに、子供達の将来にも大きな影響を与えてしまうため、子供達のスポーツ指導に関わる大人達はそのことを考える義務があるのではないでしょうか。
その中で今回は「試合中にかける言葉」に着目し、チーム力を上げる方法についてお伝えしていきたいと思いますので、最後までお付き合いいただければと思います。
チーム力を上げる指導者の特徴とは?
これはスポーツ指導をするコーチだけにかかわらず、教育者や私達メンタルトレーナーにも言えることですが、実力がない人ほど、自分の不足している部分に直視せず、失敗に終わった原因を自分以外に求めます。
たとえばコーチなら「選手のメンタルが弱かったから」「選手が練習通りにできなかったから」と失敗や負けた原因を選手のせいにして責める言葉を投げかけます。
一方で実力のあるコーチほど「自分の指導方法に不足していることは何だろうか?」「子供達が本番で実力を発揮できない原因はどこにあったのだろうか?」と自分自身に原因を求めて前者の何倍も努力しますし、考えることをやめません。
そしてチームが望んでいた結果を出せた時は「選手達が頑張ってくれたから」と選手を認めてあげています。
その結果、選手はさらに意欲的になり、選手自身も自分達に不足している部分は何なのかを考えるようになって、チームとしての力も伸びていきます。
これが私の考えるチーム力を伸ばすスポーツ指導の定義です。
結果が残せないチームの原因
人の脳は「快」か「不快」か、大きく分けるとこの2パターンになります。
快は、楽しい・嬉しい・ワクワク・ウキウキなどの感情を持ち、逆に不快は、辛い・悲しい・落ち込み・イライラなどの感情を持ちます。
人の脳はとても働きもので、さっきまで「快」だったのに、ちょっとしたことがきっかけで「不快」になったりと、とても乱れやすい性質を持っています。
たとえばコーチが選手へ過度なプレッシャーをかけてしまったり、試合中に罵声を浴びさせたり、指導者が不機嫌になって指導を放棄をしたり…。
このような指導者の言動が選手のメンタルを乱してしいまっているケースは珍しくありません。
指導者へのメンタルトレーニング
これは中学の部活動でスポーツ指導をするコーチからメンタルトレーニングの依頼を受けた時のお話です。
私はそのコーチが指導しているところを何度か拝見したことがあったので、思わずため息がもれそうになったことを覚えています。
「葉月さん、うちの子供達は向上心やチャレンジ精神がなくて…。一度メンタルをビシッと鍛えにきてくれませんか?心臓に毛を生やしてあげてください。」
私はその原因が何となく分かっていたので正直憂鬱でした。
その原因とは・・・
- 子供に威圧的な態度で指導をする
- 試合の結果が悪ければ不機嫌になる
- 特定の選手を決めて暴言などで攻撃する
- 選手のメンタルを鍛えるためなら手をあげることも仕方ないと思っている
- 審判のジャッチに文句を言う
- 選手の体に対する管理能力不足
子供のメンタルトレーニングを行ううえで、指導者や保護者の方がメンタルトレーニングの基本をきちんと理解してくれている場合は、短期間でも少なからず結果として現れる場合がほとんどです。
しかしその原因が指導者にある場合は厄介で、指導者がベテランであればあるほど難航します。
指導者の威圧的な言動は、子供の向上心やチャレンジ精神を低下させるのには十分な材料となりますし、選手をまとめる指導者が審判に文句を言うのはあまり褒められた行動ではありません。
選手までもが結果に対して他人のせいにする癖がついてしまえば、選手の成長もそれまでです。
そして今回は、子供達のメンタルトレーニングを行う前にコーチのカウンセリングを行なったのですが「いや、だってですね…」「いや、自分だって分かってはいるんですけどね…」「そうはおっしゃいますが私だって…」とそのようなフレーズばかりでした。
このように無意識に「でも」「だって」とできない理由を探す人は自分自身の成長を止めていますし、本当に状態を変えれる人は自分の中に「できる理由」を探し始めます。
相手の思考や行動を変えるよりも、ますは自分の思考や行動を変える方が遥かにエネルギーを消耗しないのに、なぜか相手を変えようとすることにエネルギーを使ってしまうのです。
最終的にはこちらのコーチにもしっかり理解していただき、子供達のメンタルトレーニングを行うことができましたが、子供達がするスポーツの現場でこのようなケースは決して珍しくありませんし、まだまだ考えるべき点は多くありそうです。
試合前のメンタルケア
試合前に選手へかける言葉はとても大切ですし、試合前から選手の脳を不快な状態にするのは避けたいところです。
ではどのような言葉が選手の脳を不快にするか考えていきたいと思います。
まず試合結果に直結するような言葉かけはふさわしくありません。
例えば「今回こそ負けられないぞ!今まで頑張ってきた意味がない。とにかく全力を尽くせ!」これは本当に最悪な言葉かけです。
指導者が過去の負けや失敗を引きずって、「負けてはならない」と否定の言葉を使うことで、選手の脳には負けている自分たちを無意識にイメージさせてしまっています。
また試合結果に影響するものはたくさんありますし、自分達の力だけではコントロールできないことも多く存在します。
今日の試合で勝つかどうかは「今日の試合で勝つに相応しいプレイをしたチームが勝つ」ただそれだけなのです。
ただし「全力を尽くせ」のフレーズは前に向いている言葉なので「それぞれがするべきことをして全力を尽くそう」などと声をかけてあげると、選手の脳を「快」にして前へ進ませてあげることができるでしょう。
それに指導者が試合にワクワクしている場合、それは選手へ連鎖し、本番でプラスに作用します。
「とにかく今日は試合を楽しもう!」「自分たちの力を思う存分に発揮しよう!」と試合前のミーティングで指導者が笑顔を見せれば、極度に緊張している選手にとっては緊張を和らげてくれる材料にもなります。
試合中に選手がミスをした時のメンタルケア
選手のメンタルが最も乱れる時は「ミスをしてしまった時」「指導者に怒られた時」「ピンチになった時」だと思います。
そして選手がミスをした時に見かける光景が、指導者が怒鳴ったり、浮かない顔をする光景です。
先日に行われたバスケの試合会場では、相手チームの指導者がパスミスをした選手に対して「何やってんだよ〜!?」「おい!無視か!?何をやっているのか聞いてんだよ!お前は言葉も話せないのか!?」と怒鳴っていました。
それは実に残念な光景でした。
私は選手と指導者にはそれぞれの役割があると思っています。
選手はコートやグランドで誠心誠意試合へ挑むことが大切な役割ですし、指導者はその選手への技術指導が主な役割です。
しかしこちらのコーチは、自分の怒りや感情を言葉で吐き出してるに過ぎません。
それに対してパスミスをした選手は、再びコートで自分の役割を果たそうと体を動かしていたのですから、そちらの方が真っ当です。
何より試合中のミスに対して1番落ち込んでいるのは選手本人ですし、選手のミスを責めたところで、ミスがなくなるわけでもありません。
むしろ選手のメンタルを乱し、試合はさらに悪い状態となってしまいます。
もしも選手が間違った動きをしてしまっているのなら、そこは冷静に指導をするべきだし、ミスをした場合は「今から何をするべきなのか」をシンプルに伝えてあげることではないでしょうか。
選手のメンタルが乱れた時の対処法
試合では練習の中では予測できなかった「想定外の出来事」が多く起こります。
その中で選手たちが流れをつかむことができなければ、慌てふためいたり、判断力や集中力を低下させてしまうことがあります。
よく「平常心でプレーしろ」このような、分かったようで分からない精神論を子供へ伝えても、それが子供達のメンタルを安定させることはありませんし、むしろ「平常心を保たなければ」と曖昧な意味を理解した気になってそこに意識を持っていかれ、結局そのことがマイナスに作用することも少なくありません。
心を安定させるために思考を変えることは大切ですが、試合中はもっと明確にしてあげることの方が子供に伝わりやすくなりますし、結果につながりやすくなります。
それは「思考」ではなく「行動」を変えさせるということです。
失敗して下を向いて猫背になっている選手には「自信を持て」ではなく「胸を張ろう!」と伝え、集中力や判断力が低下している時は「声を掛けあおう!」と伝え行動を変えさせてあげます。
思考と行動はリンクしていますから、行動を変えることで思考が変わり、本当に自信があるような気になったり、集中力や判断力を高めることができます。
アンフェアだと感じた時の対処法
試合は一人でするものではありません。戦う相手チームがいて、試合をジャッチする審判がいます。
相手チームの中にはフェアプレーをしない選手がいたり、公正なジャッチをしてくれない審判に当たることもあるでしょう。
しかしその環境を変えることは難しいのが現実です。
審判のジャッチに不満を持った選手が不機嫌にプレーをしている光景を見たことがありますが、実にもったいない話です。
この時、選手の脳は間違いなく「不快」になっているわけで、そうなったきっかけは「審判のジャッチ」かもしれませんが、不快スイッチが入ってしまった本当の原因は「誰も分かってくれない」と自分を受け止めてくれないことに対するものだと考えられます。
例えばこの時に指導者が「今日の審判は確かに納得いかない部分があるよな。俺だってお前と同じ気持ちだ。でもどうやっても審判は変えられないよな?だからやっぱり自分達にできることを頑張るしかないんだ。」と選手の気持ちを受け止めてあげることで、選手は落ち着くことができるでしょう。
このように選手は、今の環境に「分かってくれる人がいる」と思えば安心してプレーができますし、メンタルを乱すことなく試合へ集中することができるでしょう。
言葉が持つ力
選手の思考を変えるには行動を変えることが効果的だとお話ししましたが、これ以外にも言葉が持つ力を活用する方法もあります。
それは「お前なら大丈夫だ」という言葉です。
信頼しているコーチからの「大丈夫」は子供達にとって大きな力となるし、「不安」や「恐怖」を和らげて前へ進める力を与えてくれます。
最後に
今回は指導者の言葉かけについてお伝えしましたがいかがでしたでしょうか。
子供達のメンタルを強くするために「根性論で鍛える」という時代はもう終わりました。
そのような方法で一時的に結果を残すことができても、選手である子供達が失うものはたくさんあるのです。
子供やチームを強くしてあげたい思いは、どの指導者の方も同じなはずです。
スポーツ少年団やクラブチーム、学校の部活動でも、大人達が意識を変えることで子供達の可能性はもっと大きなものになるのではないでしょうか。